vol.25 日本代表アギーレ監督解任のニュースを見て思い出した過去の「汚点」

柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
フリー・スポーツ・ジャーナリスト
立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

突然ではあったが、意外ではなかった解任報道


 サッカー日本代表のアギーレ監督が解任されたニュースは、確かに突然で驚きしたが、一方で、こうなってしまう可能性を予想していたところもあり、世間の評価も、解任の是非ではなく、解任の時期が、このタイミングでよかったのかどうかという方向に向いている。
先月行われたアジアカップでは、確かにベスト8での敗戦と残念な結果に終わったものの、選手起用を含め、私は、悪くないんじゃないのと思っていたので、できれば、もうちょっとアギーレジャパンの行方を見てみたかった。残念なことになった。

しかし、ことが八百長試合の告発となれば、この決断はやはり仕方がない。ただ、現時点では、告発されただけで、八百長試合を実際にやったということにはなっていない。調査の結果、不起訴、八百長として認定されずという結末も考えられる。犯人扱いは妥当ではないのだ。
ならば、なぜ解任されたのだ。その結論が出てからでいいじゃないか、という考え方もあるのだろうが、スペインの裁判所が告発を受理した以上は、当然のようにこれから審理が行われる。裁判の日程が、日本代表にとって大事な試合や合宿などに重なってしまったら、監督不在で戦わなければならなくなる。まして、仮にその裁判の結果、“有罪”ということになってしまったら、サッカー日本代表は大混乱に陥ってしまうことになろう。
サッカー関連のメディアは、もっと早く解任するべきではなかったのか、という声が上がっているが、それも当然。そもそも、アギーレを監督に起用するべきではなかった。八百長に関与したのではないかといううわさは、早くから囁かれていた。それらの身辺調査が妥当でなかったのだとしたら、それは、彼の能力、手腕がいかに優れたものであっても、監督として契約すべきではなかった。その責任を、アギーレの獲得に関わった協会のトップの人たちは、とらなければならない。
これから、次の監督選びが急がれるわけだが、今回の、結果的に誤った選択をしてしまった人たちに、再び選考に加わる資格があるのか。そう問われていると思うけれど、時間がないことを理由に、何食わぬ顔でメンバーに加わっているんだろうな。残念だけれど、世の中、そういうものだ。
アギーレ監督が、八百長に関与したかどうかは、裁判の結果を待つとして、八百長という、3文字には、我々のような古くからの野球ファンにとっては、苦い思い出が甦ってくるようなところがある。

日本球界でも過去に八百長事件で大きく揺れたことがあった

日本球界ではもう半世紀近く前の69年から70年にかけて、「黒い霧事件」と呼ばれる、プロ野球を舞台とした八百長事件が発覚した。それはその後、オートレースをも巻き込んだ大規模な八百長事件に広がっていった。発覚の舞台となった当時の西鉄ライオンズからは、高校卒業後わずか5年あまりで通算100勝を達成した若きエース池永正明(のちの05年に処分解除)ら4人が永久追放処分を受け、他にも2人が長期の出場停止処分を受けた。
さらに他球団にも波及し、東映フライヤーズの若き速球王、森安敏明がやはり永久追放処分を受けている。
 暴力団からの野球賭博に関わる八百長の依頼だったが、逮捕された暴力団側人物によると、成功した回数は少なく、結果的には大損だった、と当時の報道にあった。
 当時、戦後から20年が経ったとはいえ、まだまだ、特に地方都市にいたっては、地元の興行主との関係を抜きにして、運営していくことは難しかった。戦後の騒乱の中で、プロ野球が復興への足掛かり、象徴になったのは事実だが、一方で、地元の経済などを支えたのは、良くも悪くも、のちにヤクザ、暴力団へと転化していく“力を持った集団”が多かったのだ。その流れで、暴力団との悪しき関係を断ち切れない関係者も少なからずいたと聞く。

 もちろん、八百長を肯定することはできないけれど、その手の関係者との付き合いは、今と違って、ある意味、単なる友人としての付き合いという形もあったのではないかと思う。
 黒い霧事件は、そういった意味では野球界の過渡期にあった、当然乗り越えなければならない壁であって、ある意味、多くの犠牲をここで払ったからこそ、健全なプロスポーツとして、一歩足を進めたと言えなくもない。
 話を戻すが、アギーレが関与したことを疑われている「八百長事件」は、そういう賭博のためではなく、当時のチームの2部落ちを防ぐために、何が何でも勝たなかったからと言われている。つまり1部残留を果たすために勝ち点3が必要であり、そのために相手に金銭を渡し、わざと負けてもらったということである。真実は、これから、明らかにされるだろうが、日本野球界の黒い霧事件とは少し趣が異なるようだ。
 いずれにしても、昨年のワールドカップで惨敗し、再建に忙しい日本サッカー界にとっては、大きな誤算が生じたことになる。なにしろ、次のワールドカップに向けての予選が、早くも今年6月にはスタートするのだから。急がなくてはならないが、急ぎすぎて再び判断を誤るということだけは許されない。

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