vol.26 プロ野球の春季キャンプも、ほぼ終了・・・・・・

_コラム

柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
フリー・スポーツ・ジャーナリスト
立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

ルーキーの躍動をあまり実感できなかった今年のキャンプ


 春季キャンプはほぼ終了。すでに、オープン戦、練習試合と多くの実戦が組まれ、調整の場であるとともに、多くの、特に若手選手にとっては、シビアなレギュラー争いが繰り広げられる場となっている。
 例えば投手の場合、プロ野球に入ってくるレベルの選手であれば、そこそこの球速を持ち、あるいはタイミングを合わせにくい変化球を持っているとか、それなりのレベルは持っているもの。それを実戦でいかに生かせるかを見て、一軍ベンチ入りが決められるのだ。
 かつてはブルペンでは素晴らしいボールを投げるのに、実戦になると、てんでダメと言う投手もいた(今もいる)。二軍戦では特大のホームランを打つのに、一軍に上がると三振、凡打を繰り返すという、“二軍の四番打者”も多くいた(今もいる)。
 つまりは、一軍のレベルに見えてもやはりどこか足らないのだ。技術面が理由ではなく、メンタルの方に問題ありと言う選手も、その中には多くいただろう。
 強いハートを持つ――。これはこうやって書くと簡単のように見えるが、そうでないことは多くの選手が感じていることだろう。
 2015年のプロ野球開幕まで残り1カ月。球音は南の島から北上していく。その中で、昨年までと違った顔が一人でも多く出てくれることを、球団関係者はもとより、ファンの多くが望んでいるのだ。

 今年のキャンプの特徴といえば、珍しくというか、雨が少なく、どの球団もほぼ順調に練習メニューをこなすことができたということだ。あえて言うなら、新人の注目選手が、例えば有原(北海道日本ハム)が昨年から不安を訴えていた右ひじの影響もあって、練習ペースが抑え気味で、あまりトップニュースになることがなかったこと。安楽(東北楽天)も途中から二軍での練習に回ったこともあって、こちらも話題に上ることが少なくなった。高橋光(埼玉西武)もしかり。これらの注目度の高かったルーキーがあまり記事になることがなかったこともあって、こと「新鮮さ」という点においては評価がしにくいキャンプだったと言えるかもしれない。
 その代わりというと怒られるかもしれないが、キャンプの話題を独り占め状態だったのが、広島の黒田博樹投手だっただろう。

話題を一身に集めた黒田博樹の“古巣”広島への復帰

キャンプでの練習内容と言うよりも、話題は“本当に”広島に帰ってきたその“男気”が、話題となった。一番には、本人の感情とは別に、やはり20億以上というメジャー球団のオファーを蹴って、4億円(推定)のカープを選んだということにある。
口では「金じゃない」と言うのは簡単だが、それを実行に移すのは難しいことだ。そう多くの人が思っているからこそ、黒田の決断が驚きとともに尊敬の眼差しを持って見られている。一言で言えば、かっこいい。
それが単に上辺だけのものでないことは、ファンの皆さんも感じるのだろう。広島キャンプは、さながら“黒田祭り”の状態だった。テレビなどで放映されていたのでご存知の方も多いと思うが、黒田はオフになってすぐ、帰国して昨年広島市の北部を襲った豪雨土砂災害の現場を訪れている。まだまだ被害の痕が残る現場で率先して復旧作業を手伝ったという。

当時、私のこのコラムで書かせてもらったが、被災地の近くには姉一家が住んでおり、当時、黒田が来たというのは、少なからず話題になったらしい。
そういった言動の一つ一つをとっても、黒田の行動が安っぽい見栄とか同情とかからではなく、真に広島という土地を、あるいは人を、それらの人の中に大勢いるカープファンを、時に愛し、気遣い、慮っての行動だと、あらためて思うのである。
これまで日本球界を去って、メジャーに進んだ選手は、数多くいる。その中で再び日本球界に復帰した選手も、今年だけで黒田をはじめ松坂(福岡ソフトバンク)、中島(オリックス)、田中賢(北海道日本ハム)と4人いる。しかし、今年の4人を含め、過去に日本に復帰した選手の中で、黒田のように、20億ものオファーを断って日本に戻ってきた選手はいない。さらに、復帰した選手の中に日本時代に在籍した球団に復帰した選手も今年の黒田と田中賢だけではないか。
こうなるともう、すごいとか、かっこいいとか、そんな形容詞しか出てこない。プロである以上は、お金の評価がつまりはその実力の評価とイコールであると多くの人が考えていると思うし、実際に黒田本人もそういう考え方を否定していない。それらをすべて理解した上で、広島復帰を決めたのである。
ちまたでは、黒田の今回の決断を「男気」と評している。「男気」はとんねるずのテレビ番組の中で、「男気ジャンケン」と称して、食品やお土産品、名産品などをまとめ買いし、そのジャンケンに勝ったものがすべて料金を支払うという決まりで、言い換えれば、本人にしてみれば何の役にも立たない、あるいは全く不要なものであり、店で売れ残って処分に困っている商品を、“男気”を出してすべて買い、その店を助けるというコンセプトで作られている番組なのだが、ここで“流行語”となった「男気」が、黒田によって、本当の意味での「男気」として、脚光を浴びたというだけのこと。おそらく、黒田にとっては「男気」と言う2文字は、全く考えていなかったことだろう。
 当の黒田は、やはり7年ぶりの日本でのプレーに不安があることを、各メディアに発信している。偽らざる本音だと思う。ボールも違う、環境も違う、さらに言うと間違いなく、トシを重ねている。
 黒田ほどの投手にしても、これからの1カ月で実戦を重ねてアジャストいくしかない。不安も当然だ。そこのところは、若い選手たちと変わりはあるまい。
 3月の声を聴くと、もうすぐ開幕と言う気持ちの高まりがある。すべての選手がケガなく、順調に開幕を迎えられるよう、祈っている。

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