vol.29 不幸な事故ではあるが、それの責任のほとんどが球団にあるのだろうか?

柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
フリー・スポーツ・ジャーナリスト
立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

何ごとも、予想、予測は難しいものだ


 プロ野球が開幕して1週間。前回のコラムでは、故郷の広島東洋カープが、“黒田効果”もあって、優勝候補として祭り上げられていることに、違和感がぬぐえないと書かせてもらったが、案の定というか、悪い予感はよく当たるともいうけれど、開幕3連戦こそヤクルト2勝1敗と勝ち越したが、続く横浜との3連戦では、なんと3連敗。この時点で2勝4敗は、これも予想外だったと思うが、巨人と並んでセ・リーグの最下位である。
 今はまだ、順位をどうのこうのを言う段階ではないと思うが、単なる勝ち負けだけではなく、その内容もちょっとなあ、と疑問を感じざるを得ないというのが本音だ。
 パ・リーグでも、やはり優勝候補に挙げられているオリックスがいきなり西武に3連敗するなど、最悪のスタートを切っているし、思うように進まないことは、なにも野球に限ったことではないと言えるだろう。
 いかに予想が難しいかということだが、予想が当たらないことは、個人的には大好きな競馬で何万回も経験しているし、まあ、どうということはない。これからの巻き返しを期待することにしよう。

 さて、前回のコラムでお約束した、北海道日本ハムファイターズのファンが野球観戦でファールボールが直撃し、右目を失明した事故についての裁判についての感想を書いてみたい。

「3月26日、札幌地裁はプロ野球観戦中にファールボールが当たり、右目を失明した市内の30代の女性が日本ハムなどに約4650万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、球団などに約4190万円の支払いを命じた」
 実はこの手の裁判は過去にも行われており、訴えは棄却されていた。判決を受けて、多くのファン、指揮者、関係者がコメントを寄せているので、皆さんもインターネットなどで見聞きされていると思うが、どちらかというと、「失明に至ったことには同情するが、判決は驚き、見ている側の自己責任ではないのか」という意見が大勢を占めている。

ともすれば、野球観戦の在り方そのものが変わる

 札幌地裁は「観客に常に試合から目を離さぬよう求めるのは現実的ではない」とし、打球が女性の座席に達するまで約2秒しかなかったと指摘。注意喚起をしていたとはいえ、ドームの設備には安全性を欠いていたとし、原告側の訴えをほぼ認めたわけだが、逆に言えば、2秒しかかからないような席に座っていながら、打球の行方から目を離していたのなら、この女性は何を見ていたのかと聞きたくもなる。
「安全性」と言うが、ネットが張っていない場所であれば、ボールが飛んでくる危険性は常に持っているべきなのは当然だし、そもそも、ボールが絶えず行き来しているわけではないのである。投手が投球し、それを打者が打つ。その瞬間を見ていてくれと言うことで、それを楽しみに球場に野球観戦に行かれているのではないのだろうか。
 この裁判の行方は、日本ハム、札幌ドームだけの問題ではなく、野球界全体に影響してくる。この判例が通ってしまうと、球団はそれを防ぐ手立てとして、極端なことを言えば、全面ネットを張る以外にはないのではないかということになる。

 今回のケースが、失明という“大事故”だったから、ファンの側にも同情が募り、さまざまな意見が飛び交っているようだが、ことは事故の大小ではないはず。今回の訴えが認められると、すなわちこのような前例ができてしまうと、今後、ちょっとしたケガでも、訴えは認められることになってしまう。
 そもそも球場は、ほぼ球団に管理を任せられているが、所有者は県や市といったケースがほとんどだ。この裁判の行方によっては、こういった公共施設の在り方にも大きく影響しよう。例えば、これが高校野球の県予選レベルで起こった事故であれば、だれが責任をとるのだろうか。球場側? その試合を開催した高野連? 例えば応援に行ってケガをしたのであればそういう機会を作った高校ということになるの? 
 今後に、さまざまな影響を与えそうな出来事なのである。挙句には野球は危険だからやめなさいという人だって出てくるかもしれない。
 日本ハム球団は控訴も検討中ということなので、裁判の今後の行方は五里霧中というところだが、ことは、日本のプロスポーツ界全体に関わることにもなりかねないので、慎重に進めてほしいと思っている。

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