vol.45 引退試合がなくってかわいそう? そんなもの、いります?

柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
フリー・スポーツ・ジャーナリスト
立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

昔はオープン戦で引退セレモニーに普通だった

 日本シリーズの移動日にあわせて、読売巨人軍が記者会見。高橋由伸選手の現役引退、監督就任が正式に発表された。
 もう、先週の内に監督就任が公表されていたし、高橋由伸本人も、俗にいう“立ち取材”を受けていたので、正直を言うと『何を今さら』という気がしないでもなかったが、最近、何かとお騒がせな巨人にとっては、やはりきっちりとした形での発表をすることで、高橋由伸に対しての“球団としての誠意”をあらためて証明したかったのだろうと思う。
 ところで、まだまだ現役選手として選手生活を続ける気が満々だった高橋由伸に、監督を要請し、それを受けた高橋由伸が「兼任はありえない」と引退を決意して、監督を受諾することになったため、高橋由伸の“引退試合”が行われなかったことを残念がる声が、ファンの間から上がっていたようだ。
 引退試合――。昨今は、チームに多大な貢献を及ぼし、実績を残した選手に対して、シーズン終盤(最終戦になることが多いが)の試合で、その選手の、例えば投手であれば“記念登板”の機会を設けたり、打者であれば、代打での“お別れ打席”を設けることが恒例となっている。
 ただ、今年の中日は、“レジェンド”山本昌投手の引退試合が、プレーオフを目指して戦う広島との最終戦となったため、いろいろと複雑な事情を露呈することになってしまったし、そもそも、この手の引退試合が必要なのかという議論を呼んだりもした。
「引退試合」はその昔は、あくまで勝負と関係のない試合で行われていたものだ。

 古すぎて知らないよと言う人も多いかもしれないが、数々の名場面を作った大投手の引退試合は、いずれも翌年春のオープン戦で行われた。
 南海ホークスの杉浦忠投手は、巨人とのオープン戦を引退試合とし、立大時代の同僚で、プロ入り後も日本シリーズで熱い戦いを演じた長嶋茂雄選手を相手に真剣勝負。
 投手に花を持たせる意味で、三振する打者が多いが、ここで長嶋選手はセンター前に見事なクリーンヒット。大学時代からの親友同士の、真剣勝負ならではの結末に、杉浦投手に「シゲ(長嶋選手のニックネーム)らしい」と苦笑だったとか。
 さらに、その長嶋選手のライバルとして一番に名前が挙がる、阪神の村山実投手の引退試合も、翌春の巨人とのオープン戦が選ばれた。当時、ラッキーゾーンの中にあったブルペンから、後輩の江夏豊投手らが騎馬を組んで、リリーフカーの代わりに、マウンドまで村山投手を送り届けたシーンもあった。
 引退試合がレギュラーシーズンの最終盤の試合に行われるようになったのは、その長嶋茂雄選手の引退試合が、満員の後楽園球場で行われてからだ。あの「巨人軍は永久に不滅です」の名セリフが今も印象的な引退試合のインパクトが非常に強かったため、それが引退試合の在り方として、最もポピュラーになってしまったと言えるだろう。
 まあ、選手本人も、ファンも喜ぶのであれば、それでいいとは思う。ただ、今回の山本昌投手のようにビジターの試合でやるのではなく、できれば本拠地の試合でやってあげたかったなと思うのは、私一人だろうか。
 長嶋監督が第一次政権で、実質解任で監督の座を追われたときに、合わせるかのように現役引退を決めたのが王貞治選手。実は本人はまだ現役を続ける気でいたのだが、長嶋解任が急に決まり、引き継いだ藤田元司監督との話し合いで、現役を引退し、助監督として藤田監督をサポートすることが求められた王選手は、シーズン中の引退試合を行っていない。
 では、どうしたかと言うと、11月に行われたファン感謝デーで引退のセレモニーを行ったのだ。ファンへのあいさつを終えると王選手は、ファーストミットを一塁ベース上において、現役生活に別れを告げた。

監督も世代交代――。でも、昔は30歳代での監督就任が普通にあった

 今シーズンは特に、球界に大きな功績を残した選手で引退が相次いだために、いつもより“引退試合”が多かったが、個人的な考えで言えば、なにもシーズン中の試合でやらなくてもいいような気もする。皆さんはどう思われるだろうか。
 ついでに、高橋由伸監督が決まったところで、セ・リーグの6監督が出そろい、すべて40歳代の監督として話題になっている。若返り、世代交代が監督の世界でも行われているということなのだろうが、かつて、球界では“青年監督”続々誕生とニュースになったことがあった。上記した村山実さんの監督就任も、長嶋茂雄さんの監督就任も30歳代のこと。ついでに言うと、あの巨人のV9を達成した川上哲治監督も、その就任は39歳の時だ。

 野球賭博が球界を騒がせているが、あの「黒い霧事件」で主力選手がごっそり処分を受けた西鉄ライオンズの窮地を救うべく、監督に就任したのは、その西鉄の大エース“鉄腕”稲尾和久さんだった。その時、32歳。
 鉄腕も、登板過多もあって、すでにボロボロ。今回の高橋由伸選手同様に、現役に別れを告げて監督専任となった。専任監督に32歳で就任したのは、今もって、プロ野球界では「最年少記録」だ。
 高橋由伸監督、「40歳が若い」などとは言っていられないと思う。稲尾さん同様に、賭博問題で揺れるチームを率いるのは、いろいろ大変だとは思うが、「若いから」を言い訳にするのではなく、武器にして戦ってほしいと思う。

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