vol.51 プロ野球開幕から約2カ月、抑え投手受難にかつての名クローザーは…

_コラム

柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
フリー・スポーツ・ジャーナリスト
立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

長い休載のお詫びと、予想を覆すチームの奮闘に拍手

 このコラムに興味を持ってくださっている読者の方がおられるなら、申し訳なかったと思いますが、いろいろ理由があって、長い間お休みさせていただきました。
 理由の一つは、昨年来、球界を襲ったさまざまな出来事でした。野球賭博に覚せい剤――およそ、現場でプレーしている選手たちにとっては、マイナスイメージしか残らない報道ばかりで、また、刻々と変わる情勢の中、コラムを書いては消しの日が続きました。
 勝手ではありますが、いろいろ治まるまでは、少し書くのを止めようという判断をしました。
 今週、清原被告の裁判が開かれました。あの“球界の番長”とも言われた、野球界の大ヒーローが法廷で裁かれているのです。結審は今月末ということです。判決を待ちたいと思います。

 日本のプロ野球は、開幕から約2カ月を過ごしました。
 セ・リーグでは、開幕前に苦戦が予想された中日と広島の健闘が目立ちます。中日は新外国人選手の予想以上の頑張りもあって、首位戦線を走っています。広島は、“マエケン・ロス”で、投手陣の台所事情が苦しいのではないかと予想されました。次期エースと期待された大瀬良も故障が発覚し、現時点では一軍のマウンドに立っていません。しかし、まさに全員野球の奮闘ぶりに加え、昨年までさんざん投手陣に負担をかけてきた野手陣が好調な打撃を発揮し、チーム打率、本塁打、そして得点でダントツのトップの数字を残しており、チームの好調を支える形になっています。
昨年までのチームを考えると、中日も広島も、(わずか2カ月とは言え)、このような状況を予想するのは難しかったと思います。4カ月後、この結果がどう変わっているかは、それこそ予想が難しいのですが、楽しみはあります。
 一方のパ・リーグは、前年の覇者であるソフトバンクが、予想通りというか、早くも首位を走っています。独走態勢に入ったと言っても、過言ではないかもしれません。
 
 今シーズンのパ・リーグの序盤を語るならば、「リリーフ陣の不振」が一つの大きなテーマとなっているかもしれません。
 北海道日本ハムの増井、東北楽天の松井、オリックスの平野……昨年まで結果を残してきた「クローザー」たちが軒並み数字を落とし、増井、松井に関しては防御率が現時点で6点台と、目を覆いたくなるような数字です。
 親交の深い江夏豊さんは、抑えの心得の一つとして、「打たれたことを忘れること」と言っておられました。「打たれて負けたことを引きずっていては、身体がいくつあっても足らない。試合は毎日あるのだから、打たれて、負けても、しっかりと寝て、次のチャンスを迎えるようにしないと。その都度、いつまでもぐずぐずやっていたら、身が持たない」と言われていました。
 とはいっても、そういう心境になれたのはおそらく晩年。阪神から南海に移籍し、野村監督のもと抑えに転向してからは、慣れないリリーバーに苦労したと言っていましたし、広島に移籍して、優勝請負人となってもまだ、当時は抑えの仕事が確立されておらず、時に7イニングも投げたことがあるなど、抑え投手の在り方そのものがまだまだ流動的で、その中で相当悩み、苦しんだということを言ってもおられました。
 つまりは、選手たちは、悩み、苦しみ、そしてそれらを練習によって克服していくしかない。これは、抑え投手だけでなく、選手全般に言えることだと思います。

英国レスター・シティの快挙に広島初優勝の興奮がよみがえる

 ところで、私がこのコラムを休ませていただいていた間、最もセンセーショナルだったスポーツの話題といえば、サッカーのイングランド・プレミアリーグでの岡崎慎司選手が所属するレスターの優勝ではなかったでしょうか。
 このアップセットは、サッカー界では史上最大と言われ、イギリスのブックメーカー(賭け屋)が賭け率で最大5000倍をつけたというのは、さんざん報道されましたから、皆さんもよくご存じだと思います。

 確かに前年終盤の頑張りでやっと降格を免れたチームが、世界的にも有名な諸クラブを抑えて優勝したわけですからこの表現もわかります。今の欧州サッカー界は、大金をつぎ込み、有力選手、監督を集めたチームが覇権を争うというのが現実。イングランドで言うなら、マンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティ、チェルシー、アーセナルといったチームが、当然のように優勝を争うとみられていたのですから、この“弱小チーム”の大番狂わせに、多くのファンが興奮したのもわかります。
 日本の報道では、この優勝を「85年の阪神タイガースの優勝並み」と表現するメディアが多かったですが、確かに、ファンの興奮ぶりはそうかもしれません。しかし、前年の降格争いからの逆転劇、リーグ開設以来の優勝という、地方都市…さまざまな事象をとらえて言うならば、どうしても「75年の広島カープの優勝」とかぶるのです。
 広島の、あの時の興奮を体感したものにとっては、今も、あれ以上の出来ごとはなかったと言えます。それとレスター・シティの興奮ぶりを、勝手に投影している私でした。

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