vol.53 半世紀ぶりの優勝が、まさか本当になる?

_コラム

柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
フリー・スポーツ・ジャーナリスト
立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

セ・リーグの異変、勝ち越しチームはカープだけ

 交流戦が終わり、レギュラーのペナントレースが再開されたばかりの日本プロ野球。その交流戦は、相変わらずパ・リーグが強く、オリックス以外の5チームが上位を占め、セ・リーグは広島だけが勝ち越し、交流戦の順位で言えば、福岡ソフトバンク、千葉ロッテに続いて3位に入った。
 セ・リーグのチームといえば例年、交流戦前まで上位を走っていたチームが交流戦でパ・リーグのチームに“コテンパン”にやられ、大きく順位を落としてしまうという姿を見ていたので、オーバーでもなんでもなく、「驚き」ではある。
 この交流戦の結果もあって、セ・リーグの順位表はえらいことになっている。リーグ戦再開の阪神戦で3連勝を飾った広島はこれで9連勝。「貯金」つまり勝ち越し数は「14」。2位以下のチームを見ると、軒並み“借金”生活。そう、5チームがいずれも勝率5割以下なのだ。6月26日の時点で言うと、2位の巨人に8ゲーム差をつけて、「首位独走」状態である。
 91年以来の優勝、という声が上がるのも無理からぬことで、広島の街は大いに盛り上がっていることだろうと思う。

 前々回のコラムで、サッカーの英国プレミアリーグを制したレスター・シティの快挙を「75年の広島カープの優勝に近い」と書いた。「まだ早い」とは思うが、このまま首位を快走し続けるとしたら、8月くらいになると、これはすごいことになる。今度は「今年のレスターのような」光景が見られるかもしれない。
 お盆には広島に帰る予定なので、そのころまでどうか今の調子が続いていてくれればと期待せずにはいられない。
 そうは言うものの、一方では不安要素もなくはない。投手陣で言うならば、やはりリリーフ陣の不安定なところ。先発投手陣にしても、ジョンソンに昨年ほどの安定感が見られないし(まあ、昨年があまりにスーパーだったから、今年が普通という見方もある)、4年前の新人王、野村祐輔の好調さはうれしいことではあるけれど、一つ一つのボールをとってみれば、絶対視できる球種を持っておらず、ボールのキレ、コントロールとコンビネーションでうまく打者を交わす投球が持ち味の野村が、白星を重ねる今の姿がどうしても彼の本当の姿と思えない。幸運が続いているだけで、これからもその白星が続くような状態が期待できるとは、どうしても思えない。
 
去年までの貧打線はどうしたの? と聞きたくなるような、打撃の好調に助けられているに過ぎないのだ。そりゃ、あんた! スタメンの5~6人が3割打者なんて、誰が予想しますか? 将来の主砲とは期待はしていたけれど、鈴木誠也が2試合連続サヨナラ弾を含む3試合連続決勝ホームランて、だれが考えました?
 緒方監督は「今風に言えば“神ってる”」と言いましたが、今風で言っても神ってるなんて言う人いる? という突っ込みはなしで、まさに神がかっている活躍ぶりで勝利をもたらしている。
 レギュラーシーズン再開後の阪神戦で3連勝も、最後は凡フライをレフトとセンターが激突して落球という、プロ野球ではめったに見られない凡ミスでサヨナラ勝ちを拾った。なんか、いろいろ予想できないことが、カープの周辺で起きている。91年以来のリーグ優勝という機運が高まるのも、そんなシーンの数々を見ていると、ファンがそう思いたくなる気持ちは分かるよね。

アップセットはしばしば、サプライズと喜びを連れてくる

 番狂わせ、英語で書くと「Upset(アップセット)」は、驚きと喜びとを連れてくる。「アップセット」と「サプライズ」はだいたい、一緒に来るものだ。

 そういえば、レスターの優勝を「75年の広島」になぞらえて語った時に、「なんでもサッカーと野球を一緒にするな」という批判をいただいた。
 それで思い出したのが、サッカーの大アップセット。今、開催中のサッカーの欧州選手権(EURO2016)だが、12年前、2004年の出来事。決してサッカー強国といえないギリシャが、堅守とカウンター攻撃を武器に(この辺もレスターと似ている)、強豪国に次々と競り勝ち、最後は、開催国のポルトガルを下して、まさかの欧州選手権の優勝を果たしたのだ。
 
書いてしまえば、これだけのことだけれど、実はそのポルトガルのベンフィカスタジアムに私はいた。まさかのアップセットの場面を、目の前で見た(なぜそこにいたかを書くと長くなるので、これはまたの機会で)。
その場にいて、私も少しばかりの感動を目の前で得たということ、しかもサッカー。これなら文句なし? 

 話が脱線したが、そんなアップセットを期待させてくれる、今の広島カープ。その昔、買い物に行くときも、買い物かごにトランジスタラジオを入れて、地元のRCCのカープ戦中継を、一戦も逃さずに聞いていた、「いにしえのカープ女子」だった母親もきっと、喜んでいるに違いない。

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