【緩急自在】vol.5「西武優勝とスポーツ新聞愛」

飯島 智則 Iijima Tomonori
日刊スポーツ記者

1969年(昭44)横浜市生まれ。93年に日刊スポーツ新聞社に入社。96年から野球担当になり、98年は38年ぶりの日本一に輝いた横浜(現DeNA)を担当。00年には巨人担当としてONシリーズなども取材した。03年から2年間は大リーグ担当として松井秀喜選手に密着。05年からはNPB担当として球界再編騒動後の諸問題を取材した。11年から7年間、野球デスクとしての内勤を経て、17年末から再び現場取材を始めた。ネットで「イップスって何?」「引退後の世界」を連載。ベースボールマガジンでもコラム「魂の活字野球学」を連載している。


仕事だから当然かもしれませんが、私はスポーツ新聞が大好きです。勤務している日刊スポーツに限らず、全スポーツ紙を愛読しています。むしろ他紙ほど熱心に読んでいます。

スポーツ新聞の業界は、他社の方と接する機会が多々あります。取材の現場で毎日のように顔を合わせるので、次第に親しくなっていきます。若手の頃は、他社の先輩に仕事を教えてもらいました。もちろんライバル関係なので直接的なネタではありません。仕事帰りや出張先で飲みに連れて行ってもらい、取材の仕方や原稿の書き方、礼儀も教わりました。失敗した時に激励して頂いたことは数え切れず、今も感謝している方がたくさんいます。

年が近い記者とは競い合う気持ちもありました。普段は親しくしていても、やはり記者同士です。「あいつより先に記事にしたい」「彼よりも内容の濃い記事を書きたい」という思いが、仕事の原動力になっていた時代もありました。

ですから他紙は何よりの勉強材料でした。同じ現場で取材した先輩がどんな記事を書いているのか。同い年の記者はどんな書き方をしたのか。「あの質問は、この記事のためだったのか」「こういう書き方をすべきだったんだな」「このタイミングでこの記事を出すとは…」などと、数々の悔しい思いも含めて学んだ記憶があります。デスク時代も、再び取材活動をしている今も、他紙を読むほどの勉強はないと思っています。

それぞれの新聞、記者によって特色があります。記事の文末には署名が載っていますが、途中まで読めば「これは誰々の記事だ」と分かることもあります。最近は新聞や記者による差がなくなっているように感じますが、これはスポーツ紙業界にとって死活問題に思えます。

さて、9月30日に西武ライオンズが10年ぶり22度目のパ・リーグ優勝を決めました。開幕から1位を守り通しての制覇は、1962年(昭和37)の東映以来56年ぶりの快挙でした。

優勝が決まった翌10月1日のスポーツ新聞を読み比べてみましょう。3連覇となったセ・リーグの広島よりも切り口が豊富です。各紙の特色が出るように思って、早起きして自宅の最寄り駅まで買いに行きました。

 ◆日刊スポーツ 西武 パ56年ぶり完全V 
 ◆スポーツニッポン 西武優勝 球団初全試合首位ゴール
 ◆スポーツ報知 西武優勝 日本一打った 辻監督開幕から首位のまま
 ◆サンケイスポーツ 西武V 10年ぶり!! ソフト敗れて辻監督舞った
 ◆東京中日スポーツ 山井現役続行
 ◆デイリースポーツ 阪神ドラ1 野手指名なら 根尾最有力

西武を1面選択した4紙は、いずれも辻発彦監督がメイン原稿でした。黄金期の主力選手で、就任2年目で古巣を優勝に導きました。どんな考えでチームを率いてきたのか、あらためて興味はわきますので、当然の選択だったように思います。

私は新聞を読む際、いきなり熟読せず、すべてのページをパラパラとめくっていきます。紙面全体の印象を確認するためです。どの新聞が何の記事にスペースを割いているか、どの記事を優先しているかなど、まず全体的な印象をとらえます。ただ、流し読みをする中でも「おっ」と目を引くような、インパクトの強い記事が出てきます。

この日はスポーツニッポンの2面にありました。「レオのレジェンド 稼頭央2軍監督」です。今季限りで引退する松井稼頭央選手に、球団が2軍監督就任を要請するとのこと。やはり人事に関する記事は目を引きます。

また、スポーツ紙の優勝紙面では、監督や選手の「手記」が定番です。今回も各紙が注目選手の手記を掲載していました。

 ◆日刊スポーツ 菊池雄星投手
 ◆スポーツニッポン 浅村栄斗内野手
 ◆スポーツ報知 山川穂高内野手
 ◆サンケイスポーツ 森友哉捕手
 ◆東京中日スポーツ 秋山翔吾外野手
 ◆デイリースポーツ 秋山翔吾外野手

自社製品をほめるのは気が引けるのですが、日刊スポーツに載っていた菊池雄星投手の手記は抜群の内容でした。「後悔」というテーマで書き切れていて、菊池投手の考え方や心情が伝わってきます。野球選手のみならず、一般の方々も生きていく上で「後悔」はついて回ります。私自身も後悔の毎日を送っています。読んでいるうちに自分の人生に置き換え、どんどん引き込まれていきました。これまでに読んだ優勝手記の中で、もっとも質が高いのではないかと思います。こんなに素晴らしい記事を掲載して頂き、菊池投手には心から御礼を言いたいです。

スポーツ報知の山川選手の手記も心温まりました。奥様の話、自宅の様子が目に浮かぶようで楽しく読めました。スポニチの浅村選手も、お父様との関係がいいですね。あと数社に辻監督の息子さんが出ていました。私は知りませんでしたが、パチスロライターなのですね。陰で支えてくれる家族に感謝の思いを伝える。これも優勝紙面のいいところだと思います。

私は記者時代、あまり「手記」という手法が好きではありませんでした。インタビューで質問が入った方が選手の言葉が引き立つように思います。周囲にいる方の証言を入れた方が真実味が出る場合もあります。よほどの内容でない限り、1人語りの手記で読ませるのは難しいと考えていました。

ですから1998年に横浜ベイスターズの優勝を担当した際には、権藤博監督のインタビューを掲載しました。私の質問をバッサリ否定するところが、何よりも権藤監督らしいと考えたからです。2003年に松井秀喜選手がヤンキースで地区優勝、ア・リーグ優勝を果たした時も、各社の手記争奪戦には加わりませんでした。その代わり、この年の松井選手にとって意味ある1打席に絞って「メジャー記念日」という長編原稿を書きました。私の記者生活の中でも記憶に残る記事なので、いつか復刻版で紹介したいと思います。

唯一、手記という手法を用いたのは2000年でした。巨人の優勝を担当した際、清原和博選手の手記を掲載しました。これは清原選手の直筆で掲載しました。線で消して書き直したところも、そのままです。このプラスアルファがなければ、やはり手記という方法は採らなかったと思います。

ただ、今回の優勝紙面を見て少しばかり気持ちが変わりました。私は昨年11月から野球担当を離れています。今はどんな記事が載っているか、自宅に新聞が届くまでまったく把握していません。読者に近い立場で紙面に接してみると、手記は実に目を引く記事でした。選手が語る親しみやすさと、普段は読めない特別感がありました。担当記者だった頃の私は、読者目線が足りなかったのかもしれません。そんなことを思いながら、各紙の手記を楽しく読ませてもらいました。

さらには、各紙とも黄金期との比較もテーマにしていました。日刊スポーツは当時監督だった森祗晶さんの話が載っていました。「西武監督時代に一緒に戦った選手、コーチで、リーグ優勝を果たしたのは7人目」って、すごいですね。東尾修監督、伊原春樹監督、伊東勤監督、渡辺久信監督、秋山幸二監督、工藤公康監督、そして辻監督です。森さんによる各監督の評価など、もっと長い記事を読みたかった気もします。

スポニチは東尾さん、伊東勤さんが出ていました。サンスポは石毛宏典さん、高木大成さん、渡辺久信さん、そして広岡達朗さんも登場しています。広岡さんの記事はおもしろかったですね。辻監督の若手時代のエピソードが印象的でした。報知はチーム関係者を取材して復活の理由を分析していました。これは私好みの記事で、これも、もっと詳しく読みたいと感じました。話は尽きませんが、朝刊のスポーツ6紙をたっぷり堪能しました。

皆さんはスポーツ新聞を読んでいますか? 最近は通勤電車の中でもスマートフォンやタブレットを楽しんでいる方が多く、ひと昔前のように新聞を広げている姿はあまり見かけません。人々の情報の集め方が変わっていますので、新聞の形態も年々変わっていくでしょう。

ただ、同じ情報でも紙面で見る感覚はちょっと違います。写真の使い方や見出しなどのレイアウトによって、インパクトは大きく変わってきます。今回のような読み比べもおもしろいと思います。

今回は記事の長所ばかりを挙げましたが、もちろん読みながら反省も繰り返しています。早く正確な情報は当然のこと、独自ネタ、独特の切り口、見解など、作り手としての課題は多々あります。少しでも充実した情報を読者に届けたいと考えています。

機会があれば、ぜひスポーツ新聞を読んでください。日刊スポーツを選んでくれれば最高ですが、どのスポーツ紙も特徴的でおもしろいですよ。もちろん本サイト「アスリート街ドットコム」も、ぜひご愛読ください。

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