vol.32 インフィールドフライでサヨナラ。騒動の元は球審にあり

_コラム

柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
フリー・スポーツ・ジャーナリスト
立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

ゴールデンウイーク中のプロ野球で最も話題になったプレー


今年のゴールデンウイーク中に行われたプロ野球で、最も印象的で、最も騒がれた試合、シーンといえば、間違いなく、5月4日の広島―巨人戦。その幕切れだった。野球ファンの方々には今さらあらためて、そのシーンを説明する必要もないと思うが、ことは「インフィールドフライ」への理解度の不足、意識の欠如が起こした、ある意味、プロの野球人として、当事者のみならず、球界全体の恥とも言える出来事だったと思う。
極々簡単にそのシーンをなぞってみる。
同点の9回裏、広島は一死満塁のチャンスを得る。打者小窪の打球は頭上に高々と上がる。飛球を追った一塁手・フランシスコと三塁手・村田が、“お見合い”して、2人の間にポトリ。ボールを拾ったフランシスコが、本塁ベースを踏んで一塁に送球、併殺を取ろうとした。
しかし、打球が打ちあがった瞬間に塁審から「インフィールドフライ」の宣告がされており、すでに打者はアウト。そのため、封殺は成立せず、フランシスコは本塁ベースを踏むのではなく、走ってきた三塁走者・野間にタッチしなければならなかったということなのだ。
それでつまり、広島のサヨナラ勝ちとなったのだが、そのドタバタぶりを見ていると、プロ野球の選手といえども、ルールをちゃんと理解していないんだなあという感想を持たずにはいられないのである。

ただ、一つ言えるのは、今回の混乱を招いた原因が球審を務めていた福家審判がインフィールドフライを宣告しなかったことにある。その宣告は、球審、塁審のうち誰がコールしても有効で、コールされたら、他の審判も追随してコールすることが当たり前なのだが、この時に福家球審は、それをしなかった。さらにあろうことか、本塁ベースを踏んだフランシスコのプレーに対して「アウト」のコールをしているのだから、何をかいわんや、つまり福家球審はインフィールドフライという認識を持っていなかったということになる。あんなに分かりやすいケースでありながら、ということである。
選手を擁護するなら、こういう「何年に一度」というシーンに遭遇して、多少パニックになるのもわからないではない。しかも、ベースを踏んだフランシスコに対して、審判が「アウト」とコールしているのだから、そのプレーはその時点で誤ったものとは言えないのだ。もちろん、飛球を落球したことについては(記録上は村田のエラーとなっている)、責められても仕方のないプレーではあるけれど。
私は、今回の混乱の原因はただ一人、福家球審にあると思っている。プロ野球の審判とあろうものが、あんなに分かりやすいケースで、インフィールドフライを宣告しないなどとは考えられない。ましてや、封殺をとろうとしたプレーに対して、はっきりとアウトを宣告しているのだから、福家球審の頭の中には「インフィールドフライ」という言葉は全く浮かんでいなかったのである。審判としての責任問題になってもおかしくない、判定だと思うのだ。
プレーヤーも(おそらく審判も)、このケースで内野フライが上がったら、インフィールドフライになるという想定は、それぞれ頭の中で想定しておかねばならない。心の準備である。それを怠っていたということが、今回のプレーを引き起こしたことになるし、その“罪”を起こしてしまったのは、プレーに関わった選手、審判の、はっきり言えば、未熟さと言われても仕方がないだろう。

意外に細かいルールを把握していないものなのだ

ただ、今回のケースに限らずなのだが、プロ野球の選手が、実はルールに精通しているかというと、そうでもないことが多い。私も仕事の関係で、昔からいろいろな野球の現場や、テレビなどで試合をたくさん見てきているが、口には出さぬとも、心の中で「え〜〜っ?!」と思うようなシーンに出くわすことも結構あった。
その最たるものが、「某野球界OBの“振っていない”発言」だ。
以前にも書いたことがあるかもしれないが、打撃タイトルをいくつも獲ったことのある某OBが、相手打者が見送ったボールがストライクとコールされ、サインミスで球種の違うボールだったため捕手が捕り損ない、打者が一塁を駆け抜け、「振り逃げ」が成立した際に、「振っていない!」と審判に猛抗議をしたシーンだった。
つまり、日本語では「振り逃げ」と言われているため、「振っていないと成立しない」と思い込んでいたのだ。ルールでは、「第3ストライク」を完全捕球できなかった際に、としか書かれておらず、それが「スイング」であろうが「見逃し」であろうが、関係ないのである。
 まあ、技術の習得に一生懸命なあまり、ルールブックを読む時間もなかったのだろう。たしかにルールブックを熟知していてもプロの選手にはなれない。速いボールを投げられたり、強い打球を打てるようになってこそのプロ選手なのだろうから。
 だから、今回のようなケースが起きた時には戸惑ってしまうのである。それがプロの選手であったとしても。内心、「オレも知らなかったよ。自分に起きなくてよかった〜」と、胸をなでおろしている選手も、少なくないはずだ。

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