vol.33 Jリーグの「フェアプレー」の基準とは何かが問われている

_コラム

柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
フリー・スポーツ・ジャーナリスト
立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

悪質なファウルにも、思いもよらぬ「軽い罰」


 今年から2シーズン制に戻したJリーグは、早くも前期の終盤戦に入ろうとしている。
 優勝争いは、昨年も最後まで優勝を争った浦和レッズとガンバ大阪が、他チームよりも1試合少ない状況で上位を占め、この2チームが圧倒的に優位にある。6月に始まるワールドカップ予選とあわせて、サッカーもなかなか楽しい。
 サッカーといえば、やはり6月から、女子のワールドカップが始まる。4年前、まさかまさかで手にした「世界一」の称号だったが、あれから4年か、年の経つのは早い。
 先日、なでしこジャパンの代表選手23人が発表になった。その去就が注目されていた澤穂希をはじめ、23人中17人が、前回も出場したメンバー。それを見て、世代交代がうまくいかなかったと、批判的な記事を書く人もいたが、佐々木監督にしても、世代交代に取り組んできたが、結局、4年前のメンバーを上回る力をつけた選手が出てこなかったということ。世代交代といえば聞こえがいいが、そのためにわざわざ力が劣る選手を選ぶのは主客転倒ということで、まだまだ現存のベストメンバーの戦い、そしてもう一度、あの栄光の瞬間を見てみたいと期待したい。
 ところで、Jリーグはその優勝争いとは別に、選手が起こした悪質な2つのラフプレーについて、その処分の軽重に差があることで、ネットを中心に議論が繰り返されている。
 一つは4月3日の鳥栖対鹿島の試合で起こった。後半30分、左サイドを抜けようとする鹿島・金崎選手とそれを阻止しようとした鳥栖のキム選手が競り合った末に、金崎が倒れた。その金崎の顔面を、キムが踏みつけたのである。動画を見るかぎり、キムは狙いを定めて顔を踏みに行っている。プレーの中で誤ってそうなった、というようなプレーではなかった。
 私はその悪質さから、数試合の出場停止にとどまらず、最低でも前期シリーズの出場停止にするべきと思ったが、Jリーグはわずか4試合の出場停止という大甘の裁定を下した。
 二つ目は5月10日の試合で起こった。優勝争いを繰り広げているガンバ大阪の岩下選手がプレーとは全く関係のないところで、広島の清水選手に対して、すれ違いざまに肘打ちを食らわしたのである。
 プレーに関係のないところで、というのがミソで、そのシーンを主審も副審も見ていなかったため、試合中に岩下がカードを受けることもなく、プレーは続行されたのだ。
 そして、前者のシーンがそうだったように、試合後、動画がネットにアップされ、岩下の行為はファンの知るところとなった。
 当然のように、各所で非難の大合唱。Jリーグも動かざるを得ないムードになった。キムが顔を踏みつけて4試合だから、今回は2試合くらいの出場停止にはなるだろうと予想したが、な、なんと! Jリーグの下した裁定は「厳重注意」。試合の出場停止は、ないという驚きのものだった。
 これには、サンフレッチェファンのみならず、当のガンバサポーターからも、岩下の前の所属である清水のサポーターからも、「えーッ!?」。驚きの声があちこちから上がったのだ。通常の試合で、今回のような肘打ちや頭突きというような暴力行為があった場合は、間違いなく“一発レッド”。つまり、即刻退場処分だ。退場処分を受けた選手は、その行為の悪質さにもよるが、次の試合は間違いなく出場できない。悪質だと認められれば、複数試合の出場停止となるケースも過去にはあった。

さらに驚かされた「出場停止なし」の“大甘”な裁定

 そういう前例がありながら、今回、出場停止とならなかったということは、つまりは今後、審判に試合中に見つからなければ、少々の(今回は少々ではなかったが)暴力行為は、出場停止にまで及ぶことにはならないという判断をリーグが決めてしまったということであると誤解されても仕方がない。
 これでは、Jリーグが標榜しているフェアプレーへの裏切り行為となりませんか。
 試合前、選手が子供たちと手をつないで入場してくるシーンもお馴染みだろうが、これは子供たちに恥ずかしくないフェアなプレーを見せますよという意味で、子供たちと一緒に入ってくるようになったと聞いている。
 そんなフェアプレー精神を無碍(むげ)にするような行為は、厳に慎むべきであり、誤ってそういい行為を行った選手にはやはり厳罰で臨むべきだと私は思うのである。

 ついでながら、鳥栖のキム選手は公式に謝罪し、金崎選手にも直接謝罪したことが明らかになっているが、岩下選手は、チームとしての謝罪は行われたが、岩下選手自身が謝罪したという話はまだ、聞かれていない。
 いい選手で、技術的にも一度くらい日本代表に呼ばれてもおかしくないと思うが、こういったラフプレーが多く、精神的にもムラっ気なところがある。だから、日本代表に呼んでもらえないんだろうなあ。こんな声も多かった。
 出場停止なしで臨んだ16日の川崎戦では、同点の試合終盤、ピンチを招くと、川崎の日本代表FWである大久保選手の突入を手でつかんで止め、イエローカード。そのシーンを巡って、大久保選手が「場面を考える
と、反則をしてでも止めないといけないという岩下の行為は理解できる。しかし、その行為に対してイエローしか出せなかった審判、さらには前週の岩下の行為に対して、出場停止を命じることができなかった審判、あるいはJリーグの規律委員会の判断こそが問題なのでは?」という趣旨の発言もあって、改めて注目されている。
 安易に「サッカーとは…」というくくり方をするつもりはないが、大久保選手の言うとおりのような気がする。

バックナンバーはこちら >>

関連記事