柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
フリー・スポーツ・ジャーナリスト
立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長
広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。
サッカーの女子のワールドカップが終わった。みなさんご存知の通り、決勝でアメリカに負けて準優勝という結果に、報道は総じて、「よくやった。準優勝は立派」と称賛する声が多い。
もちろん、客観視すれば、準優勝という結果は合格点ではある。しかし、その内容はといえば、決して合格点とは言えないのではないか。“世論”に抵抗することになるかもしれないが、あえて、「なでしこ、これでよかったの?」と声を上げたい。
決勝戦、開始早々、16分間で4失点。アメリカに、決定的な力の差を見せつけられた。振り返れば、勝ち上がったと言ってもすべて1点差。
しかも、その中には他国には大量点を奪われ惨敗したチームもあるし、そもそも、グループリーグは初出場チームばかりであり、決勝トーナメントでも、いずれもランキング下位のチームばかりとの対戦という、ウソみたいに恵まれた組み合わせだったのだ。
これは、来年行われるリオ五輪での雪辱が期待できる内容なのか。そもそも、リオ五輪、今の体制のままで行けるのか。そんな悲観的な思いが、決勝の全く希望も持てない敗戦からずっと、私の頭の中を駆け巡っている。
私は、元いた会社では野球に関わって約20年、水泳には約9年関わったが、実はその間に1年ちょっとの間、サッカーの編集部にいた。当時創刊されたワールドサッカーマガジン(現在は休刊)の初代編集長でもある。結局、その編集長は、急きょ野球の編集部に復帰することになり、わずか3カ月の“短命”ではあったのだが、それなりにサッカーを見る目を養ってきたつもりだし、今でも、年に数試合はJリーグの試合見ている。
今回のなでしこの戦いを見て、その頃からの知り合いと意見を交わしたのだが、感想は私とほぼ同じ。組み合わせに恵まれたとはいえ、準優勝という結果は立派。しかし、全く可能性を感じさせてくれなかった決勝の戦いには大いに不満と今後への不安が残る、といったものだった。
確かに開始早々失点を繰り返し、わずか16分で4点のビハインドだから、なでしこの(あるいは佐々木監督の)プランに誤算が生じたのはわかる。
しかし、もう後がない、という状況下、この後に及んでの懲罰交代(岩清水)になんの意味があるのかわからないし、奇跡と笑われるかもしれないが、少しでも勝つ気があるのなら、反撃の1点のアシストをした川澄を、あの時点で交代させる意味がわからない。
“縦ポン一発”で点を取ろうとしたのなら、それはあまりに滑稽だ。大儀見、菅沢のコンビがうまく機能しないのは、グループリーグの段階で証明されてもいる。岩清水―澤、川澄―菅沢で、交代カードを2枚使ってしまったからには、もう交代カードは使えない。スタミナ不足の大野を岩渕に代えるのは、必然なのだから。そのために残しておかねばならない。
私には、佐々木監督自身がパニックに陥ってしまい、正しい判断ができなくなったように思えた。
後半は、大量リードしたアメリカが、安全運転に終始してくれたおかげで、悲劇的な点差にならずに済んだが、どこまでいっても縮まらない力の差、組織の差を感じざるを得なかった。
今回のなでしこは、言い換えれば「宮間ジャパン」だった。宮間がプレーしやすい環境を整えることで、チームの態勢を整備した格好だった。だが、反論もあろうが、私の眼には、宮間はセットプレーでは大いに力を発揮したが、ボールをロストすることも多かった。スピードもなく、準決勝のイングランド戦や、決勝のアメリカ戦では宮間―鮫島の左サイドを崩され、失点やピンチの原因となった。周囲への気遣い、実績が一流のため、その「キャプテンシー」が高く評価されることに異論はないが、逆に、それゆえに宮間を見る目が、正しくできていなかったのではないかと思う。
日本のサッカーファンは、女には甘い。準優勝で何が不満かと、怒られるかもしれないが、はっきりといえば、それはたまたま恵まれたとは組み合わせに助けられたもので、一つ間違えれば、決勝トーナメントの早い段階で敗退する危険度の高いゲーム内容だったと思うのだ。
なんといっても、ディフェンディング・チャンピオンなのだ。本当の意味で、勝つための研究、努力、最善を尽くしたのか。できていなかったと思うし、なんか、妙に感情的になってチームが動きすぎていたように思えて仕方がない。
それは、骨折して離脱した安藤への思いとか、キャンプ中に足を痛めてやっと復活した岩渕が決勝点を挙げたりといったことで、そのエモーシャルな部分はピークに達していた。挙句、「あや(宮間)の喜ぶ顔が見たかった」と某選手が口にしたらしいが、いったい何のために試合していたの? と聞きたいくらいだ。
その信頼関係は、本人たちにとっては尊いものだとは思うが、これでは勝てないよね。
準優勝に望外の称賛を受け、それに浮かれて、正しい分析、反省もなく“次”に向かうことになれば、リオ五輪だって成果は期待できないだろう。あらためて言うが、わずか2枠しかないことを思うと、出場だって危うい。
パニック状態に陥った醜態を見せたのは、「スピルバーグ」と自ら名乗るほど、浮かれた佐々木監督だったが、今後もそのまま任せていいのか。ひとつ冷静になって考えなければならないと思う。後任に適任者がいないのであれば、サポートするスタッフに、はっきりと佐々木監督に意見できる人間を置くべきだ。
なでしこは岐路に立っている。