vol.48 サンフレッチェ対カープ? 広島のファンが騒いでいる

_コラム

柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
フリー・スポーツ・ジャーナリスト
立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

世界で日本勢の活躍が目立った週末のスポーツ界

 3年ぶりに日本で行われている「クラブワールドカップ2015」は、開催国枠で出場したJリーグ王者のサンフレッチェ広島が、1、2回戦を、相手を圧倒する強さで勝ち上がり、ベスト4に進出。16日(水)の準決勝で南米王者、アルゼンチンの名門「リーベルプレート」と対戦する。
 一部のSNSでは、野球ファンとサッカーファンの愚にもつかない「どっちがひどい」みたいな争いが相変わらず繰り広げられているが、広島のスポーツファンの多くは、熱の違いはあれ、カープを愛するのと同様にサンフレッチェを応援しているはずだ。
 このコラムが皆さんの目に留まるのは、そのリーベルプレートとの一戦の決着がついていたあとかもしれないが、個人的には、広島にFCバルセロナと戦う幸運が舞い降りていることを祈る(まさか、バルサとサンフレッチェが準決勝で負けて3位決定戦で戦うということになってはいないだろうな)。

 そのリーベルプレートとの一戦は、一部のファンの間では「サンフレッチェ対カープ」というジョークが広まっている。それは、上記した「サッカーファン対野球ファン」の構図ではなく、純粋にリーベルプレートのことを指して「カープ」と表現しているのだ。
 リーベルプレートの正式なチーム名は「Club Atletico River Plate」、訳して言えば「スポーツクラブ リーベルプレート」ということになるが、その4単語の頭文字をとると「CARP」。だから「サンフレッチェ対カープ」ということらしいのだが、アルゼンチンの公用語であるスペイン語で「鯉」は「CARP」ではなく「CARPA(カルパ)」。惜しい!

 そのサンフレッチェが快勝した日曜日は、世界各地でさまざまなスポーツの日本のプレーヤーが活躍をした。
 フィギュアスケートのグランプリファイナルで、羽生結弦が世界最高得点を挙げて3連覇したことは大きく報道されたので、皆さんご存知だと思うが、他にもバドミントンのスーパーシリーズ・ファイナルで、桃田賢斗と奥原希望が男女のシングルスでともに初優勝し、来年のリオ五輪、さらには5年後の東京五輪に希望を持たせた。卓球グランドファイナルでも男子ダブルスで森園政宗、大島祐哉のペアが初優勝。スキージャンプの高梨沙羅はワールドカップ第3戦で圧勝し、2位にも伊藤有希が入る1−2フィニッシュ。
 1―2フィニッシュと言うと、同日、香港シャティン競馬場で行われた香港国際競争のG1、香港カップ(時計メーカーのロンジンがスポンサーで、優勝賞金は日本ダービーと同等の2億円余)で武豊騎手が騎乗したエイシンヒカリが優勝。2位にも日本馬のヌーヴォレコルト(ムーア騎手)が入った。ムーア騎手は、その前のレースである香港マイルでも、日本のマイル王者、モーリスを優勝に導いている。つまりこの日行われた4つのG1のうち、2つを日本馬が制したことになる。

広島はサッカー王国だった、昔の話……

 話をサンフレッチェに戻そう。
 サンフレッチェの、Jリーグにおける今年の強さは、群を抜いていた。森保一監督が就任して、4年間で3度のJリーグ制覇は、サッカーファンを驚かせているようだ。それは、単なる3度目の優勝という意味ではなく、サンフレッチェがこれまでの優勝のなかで主力としてプレーしていた選手を次々と浦和レッズに引き抜かれるなど、一気に弱体化してもおかしくないところにもかかわらず、弱くなるどころか、むしろ強くなっている印象すらあるからだ。
 野球でも、どこかの球団がFAで他球団の主力選手をかき集め、その割に、それほど強くなっていない印象があるが、サッカーもしかりというところだろうか。
 そのサンフレッチェの活躍に、ちまたのファンは「広島でサッカーが強くなるのが意外」という声も上がっているようだ。しかし、確かにJリーグでの優勝は、ここ4年間に限定されているけれど、昔は、広島と言えば、むしろ野球よりもサッカーが強かった時代があった。

 かつて、「サッカー御三家」(古い言い回し、この辺は“昭和”です)と呼ばれていたのは、埼玉、静岡、そして広島の3県だった。
 高校サッカー界では、実は私の母校を含め、広島県の高校が何度か優勝している。(かつて日本代表の監督を務められた森孝慈さんは母校の先輩です)さらに、今のJリーグの前身と言っていいだろう、サッカーの日本リーグでは、マツダの前身である東洋工業(カープ球団の正式名「広島東洋カープ」の「東洋」はここから)が、初年度から4連覇という偉業。松本、桑原、小城、二村、船本……、今の人はほとんど知らないだろうけれど、日本代表にも名を連ねた選手たちが主力で頑張っていたのです。
 そういう土台があってこその今のサンフレッチェ、強くて、不思議でもなんでもないと、きっと「古〜〜〜くからのサッカーファン」は、思っているはず。
 今、広島では、プロ野球が行われていた広島市民球場の跡地にサッカー専用グラウンドの設置を、と盛り上がっていると聞く。そういうこともあって、2年前、松井市長が「2位でいい」などと漏らしたことで、非難を浴びたのだが、その松井市長にしても、今回のJリーグ優勝、さらにクラブワールドカップでの活躍で、「作らざるを得ないのかな」という気になっているのではないかと想像する。
 さらにインパクトを強くするためには、残り2戦、クラブワールドカップで世界をあっと言わせる活躍をするほかはないのではないか、とサンフレの活躍に期待しているのだ。

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