vol.59 フレッシュな対決で、久々に大いに盛り上がった日本シリーズ

_コラム

柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
フリー・スポーツ・ジャーナリスト
立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

勝敗を分けたのはやはり、監督としての経験の差だったか?

 日本シリーズは、北海道日本ハムが広島を2敗の後、4連勝で下し、10年ぶりに“日本一”の座についた。
 シリーズ前に、広島・黒田博樹投手の引退発言もあり、気鋭の“二刀流”スター。大谷翔平との対決が注目されるなど、大いに盛り上がった日本シリーズだった。それぞれの地元局でのテレビ視聴率は50パーセントを超えたということだし、地元局ではなくても、近年では高い視聴率をたたき出していたということは、それだけ興味を募らせた対戦だったと言っていいだろう。
 結果は、その大谷の起用法を含め、細部に神経を行き届かせたファイターズ・栗山監督の采配に比べ、勝負どころで経験の浅さを暴露してしまったカープ・緒方監督との差がそのまま勝敗に結びついてしまったというほかはない。

 たがいに、時にプロとは思えないようなミスがあったのも、やはり日本シリーズという舞台がそうさせたのだと思うほかはないが、ベンチが一緒に舞い上がってしまっていては、やはり勝ちを手にすることは出来ないと思う。
 一つ一つ、敗因を探っていくのは各メディアでされていると思うし、総じて考えるポイントは同じように思われるので、ここではそれをなぞるようなことはしないが、あえて一つだけ挙げるとしたら、最終戦となった第6戦の、ジャクソンの交代期を誤ったことだろう。
 2死だったとはいえ、押し出しで勝ち越し点を与え、投手にまでタイムリーを打たれた投手を続投させ、一番調子のいい打者に対して、そのまま投げさせた。

 えっ? と驚いたし、目を覆った。一緒に観戦していた友人に、「満塁ホームランで、ダメ押し」とその瞬間に予言した。2球目にその悪い予感は的中したが、たぶん、野球をやってきた人なら多くの人が感じた“悪寒”だったのではないだろうか。
 結果論ではなく、ジャクソンは制球を失っており、精神面の落ち込みもあったのだろう、心なしか、球威も失っていた。それを感じ取れないベンチの采配は、パニックに陥っていたとしか思えない。
 結果的に「負けるべくして負けた」。そのために、最終戦に予定されていた「黒田」の登板は、露と消えたのだ。

黒田の決断、「引き際」をあやまらないために。

 日本シリーズの敗戦が決まったため、黒田の“最終登板”はなくなった。「第7戦を投げる準備をしていたので、まだ実感がない」とは試合直後のコメントだが、その結果がどうあれ、黒田の決断に「見事な引き際」と、称賛する声は多い。
 一言で言うなら「かっこいい」引き際だ。20億ものオファーを断って、古巣広島に復帰を果たし、精神的な主柱となり、投げまくった。聞くところによると、体の不調を隠し、時には痛み止め注射を打っての登板だったと聞く。まさに満身創痍の中で投げ抜き、手にした25年ぶりの優勝。野球人生の最終章を飾るにはこれほど素晴らしいシナリオはないだろう。

 黒田クラスの選手になると、その決断は本人に委ねられる。昔、カープOBの”鉄人”衣笠祥雄さんに聞いたことがあるが、最後は止める時期を誤らないことと、そればかりを考えていたと言われていた。記録のためだけに連綿としていたと思われたくもないし、「もう少しできるよ、と思ってもらえる時期に辞めるのがいいのかな」と考えていたそう。
「誰も、辞めろとは言ってくれない。良くも悪くも、気を使ってくれるんだよね。だから、やろうと思えば、いつまでもやれる。でも、それがチームにとってプラスになるのか、自分の野球人生にとって、いい決断なのか、を考えながら、最後は自分で決めなければならない」

 球界の偉人となった選手には、そのタイミングを誤らないことも重要なはずと、衣笠さんは言われていた。
 そういう考え方が、ベストかどうかはいろんな意見があると思うが、それらを含めても、やはり決断はもう自分でするしかない。それは選手として高みに達した選手には当然求められるものだと思うし、黒田投手もその一人だと思う。
 その栄光を称えて、黒田の背番号「15」を永久欠番にするという話が伝わってきた。広島では、山本浩二選手、衣笠祥雄選手に次いで3人目の永久欠番だ。単に成績だけでなく、”男気”復帰で、広島だけではなく、球界全体に感動を巻き起こした男、黒田博樹投手にふさわしい栄誉だと思う。

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