【緩急自在】vol.23「認定トレーナー合格!」

 久しぶりにテストのプレッシャーを味わいました。3月3日、横浜市内で行われた日本イップス協会の講習会に出席しました。会を終えた後、私だけ部屋に残りました。同協会の会員になってから3回の講習を終え、認定トレーナーの受験資格を得たためです。本来は3人で受験のはずでしたが、他の方が事情のため欠席とあって孤独な戦いになりました。


 私は他の会員と違って、取材でも同協会の河野昭典会長から何度も話を伺っています。講演会にも何度も足を運びました。「イップスは治る!」(洋泉社)という本も書いていますから、不合格になると「ちょっと格好悪いなあ」という気持ちもありました。先輩トレーナーの皆さんに「引っ掛け問題もあるから気を付けた方がいいですよ」とアドバイスをもらい、ますます緊張しながら試験に臨みました。

 問題は100問あって90点以上が合格とされています。選択問題で、回答を迷ったものがたくさんありました。制限時間ギリギリまで見直しましたが、終了時は大きな不安が残っていました。夜に河野会長から合格の連絡をもらった際にはホッとしました。

 日本イップス協会の認定トレーナーは、すぐに指導を始められるような資格ではなく、「イップスの基本を勉強した証し」といっていいでしょう。いわばスタートラインです。今後もイップスやメンタルトレーニングを学び、新聞社に勤める今の仕事だけでなく幅広い活動につなげていきたいと考えています。

 さて、テストに先立った講習会でも有益な勉強ができました。認定トレーナーの1人で、臨床心理士、公認心理師の豊嶋悠人さんが「話を聞くコツ」をテーマに話をしてくれました。豊嶋さんは仕事でカウンセリングを実施しています。

 「相手が何を困っているのか、一緒に探っていきます。すべてを一気に話せませんので、今日は3つのコツだけ持ち帰ってください」。そう言って説明してくれたのは次の3点です。

①相手の体験を具体的にイメージする

 「相手の話をそのまま聞くことが大切です。話の内容が事実かどうかは、この時点で重要ではありません。そのまま聞いて、どういう状況なのか具体的なイメージを描きます」

②相づちを駆使する

 「例えば相手がゆっくり話しているなら、ゆっくり相づちします。早い口調なら、こちらも早い相づちをします。私はチューニングと言っていますが、そうやって同調していくと相手のペースがちょうどいい感じに収まっていく。そうなると、無意識な部分が出てきやすくなります」

③どの話も平等に聞く

 「一見関係ない話を始める方もいます。野球で困っていると言って来たのに奥さんの話を始めたり…でも関係ないと決めつけない。話しているうちに困っている話につながっていく。最初は人に話す不安もあります。話すことへの恐怖をぬぐい去っていきます」

 こうした説明の後にグループワークを実施しました。4、5人で一組になって、1人は「話し役」、もう1人が「聞き役」。残り2、3人は「観察者」です。この日は「好きな食べ物や嫌いな食べ物、自分が大切にしていること」などを話しました。ルールがあります。聞き役は相づちなど同調は許されますが、質問は禁止です。そして最後にはそれぞれの立場で感想を述べ合います。

 私は最初に話し役を買ってでました。すでに顔見知りになったトレーナーの方々が相手とはいえ、自分が「つまらない話をしているのでは?」という不安が出てきます。相づちや笑ってくれるなど、反応があると話しやすいと感じました。

 別のグループでは、真剣に聞くあまり耳を向けて相手に近づいていく人もいたようです。それも相手にプレッシャーを与えている可能性があるそうです。こちらの緊張が相手に伝わってしまうと、話しにくいのでしょう。豊嶋さんがアドバイスをくれました。

 まずは座る位置です。

 「真っすぐ顔が見える正面に座った方がいいのか、90度の方がいいか。信頼関係ができてしまえば、どちらでもOKでしょう。ただ初対面の方など、私が両方に座ってみて、どちらが話しやすいか選んでもらうこともあります」

 次には表情やしぐさです。

 「目が合うことがプレッシャーになる方もいます。反応を見ながら、相手の話しやすい方法をとっていきます」
 沈黙が長くなるなど、話がうまく進まない場合もあるでしょう。

 「聞き手がつらくなっていく場合もあります。でも、(答えが)出てこなくても焦らないことです。聞き手が焦ると話す方も不安になります。話しながら、相手の感情がどう動いているのか。それに対して自分の感情がどう動いているかも観察します」

 日本イップス協会の認定トレーナーは、さまざまな職業の方がいます。医師、パーソナルトレーナー、ジュニアアスリートの指導者…それぞれの立場で勉強した内容を役立てようとしています。イップスなど悩みを抱えている人と対することが想定されますので、話を聞くコツは大切です。

 私はグループワークで話し役に立候補したように、聞くよりも話してしまうタイプです。しかも、相手の反応をお構いなしに持論に酔うところがあります。これは日本イップス協会の認定トレーナーとして、最初に克服すべき欠点でしょう。

 これからも勉強を重ね、自分を磨いていきたいと思います。日本イップス協会の講習会は年に3度実施されています。興味がある方は同協会のホームページ(http://www.japan-yips.com/)をご覧ください。

飯島 智則 Iijima Tomonori
日刊スポーツ記者

1969年(昭44)横浜市生まれ。93年に日刊スポーツ新聞社に入社。96年から野球担当になり、98年は38年ぶりの日本一に輝いた横浜(現DeNA)を担当。00年には巨人担当としてONシリーズなども取材した。03年から2年間は大リーグ担当として松井秀喜選手に密着。05年からはNPB担当として球界再編騒動後の諸問題を取材し、11年から7年間、野球デスクを務めた。現在ベースボールマガジンでコラム「魂の活字野球学」を連載している。共著に小学生向けの「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」(旺文社)。18年12月には著書「イップスは治る!」(洋泉社)を出版。

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