【緩急自在】vol.25「センバツで何球投げたか?」【チケットプレゼント企画終了】

今年のセンバツは投手の球数に注目していました。最近の野球界では「球数制限」が話題になっています。センバツでは、一体どのぐらいの球数を投げていたのか調べてみました。以下はすべて延べ人数です。

◆100球以上…39人
◆110球以上…32人
◆120球以上…27人
◆130球以上…17人
◆140球以上…13人
◆150球以上…7人
◆160球以上…4人
◆170球以上…2人

 

 新潟県高野連が案として出していた100球を上限とするならば、39人の投手が交代となったわけです。また、投手によって体力や技術の差は大きいとはいえ、150球以上が7人、170球を投じた投手も2人いるとは、あらためて驚きます。

 次に完投を見てみましょう。今大会は全31試合なので延べ62人の先発投手がいます。このうち完投したのは26人です。では、完投に何球を要しているでしょうか。

◆100球以下…2人
◆110球以下…2人
◆120球以下…3人
◆130球以下…11人
◆140球以下…15人
◆150球以下…20人
◆160球以下…22人
◆170球以下…26人

 

 平均すると135球です。球数制限を導入すると完投は2試合だけ。かなり野球が変わると予想されます。

 100球以下で完投したのは第4日に登場した筑陽学園(福岡)西雄大投手(3年)の95球で、福知山成美(京都)に勝利しています。8安打を浴びていますが、無四死球が大きなポイントでしょう。

 また決勝戦では東邦(愛知)石川昴弥投手(3年)が97球で、習志野(千葉)を完封しました。3安打1死球で、5回以外はすべて3人で攻撃を封じています。打者28人ですから、この球数も納得できます。

 ただ、石川投手は1回戦から5試合に登板して3試合で完投しています。計593球を投げていますので、蓄積した疲労は大きいでしょう。優勝した翌日、森田泰弘監督(60)は「春は内野手に専念させます。ブルペンにも全く入らない。夏に勝つには石川1人では無理。もう2枚、3枚完投できる投手が必要」と明言しています。石川投手を休ませながら他の投手を育てていく。この考え方は非常に重要になってくるでしょう。

 さて、比較対照として2018年のセンバツも同じように球数を調べてみましょう。

◆100球以上…37人
◆110球以上…30人
◆120球以上…26人
◆130球以上…19人
◆140球以上…14人
◆150球以上…6人
◆160球以上…3人
◆170球以上…1人
◆180球以上…1人

 次に完投です。記念大会のため全35試合が行われ、延べ70人の先発投手がいる中、完投したのは24人でした。球数の内訳は次の通りです。

◆100球以下…2人
◆110球以下…2人
◆120球以下…4人
◆130球以下…7人
◆140球以下…13人
◆150球以下…20人
◆160球以下…22人
◆170球以下…24人

 平均は135球と、今年とまったく同じ数字が出ました。18年が135・75球で、19年が135.038球です。2年間ではデータが少ないですが、高校生が完投する場合は135球程度を要するという1つの目安にはなるでしょう。

 さて、球数制限です。センバツを主催する毎日新聞社が今大会に出場した32校の監督に、投手の健康管理に関するアンケートを実施しました。毎日新聞の記事を一部抜粋します。

 毎日新聞が今大会出場32校の監督に投手の健康管理に関するアンケートを行ったところ、球数制限に「賛成」は7人、「反対」は24人、「どちらとも言えない」が1人だった。賛成7人のうち、「甲子園大会のみ導入」が2人、「甲子園に直接つながらない春季大会や1年生大会などで実施」が2人で、「全ての大会で実施」は1人だけだった。

 やはり反対が多かったですね。もちろん理由も多々書いてありますので、興味がある方は毎日新聞をご覧ください。新潟県高野連は独自の実施を断念し、今後は日本高野連による「投手の障害予防に関する有識者会議」で話し合われます。

 どのような議論になっていくか分かりませんが、球数制限の実施までは時間がかかるように思われます。もちろん選手の健康維持が目的なので、球数制限以外のアイデアが出てくることも考えられます。

 私が最初に「球数制限」に接したのは2006年の第1回WBC(ワールドベースボールクラシック)でした。正直このときは違和感を抱いていました。野球がつまらなくなるような気がしました。大体そんなルールで世界一を決められるのか? そんな疑問、いや反感を抱いて、サンディ・アルダーソン技術委員長(当時)を直撃しました。

 球数制限を設けた理由は何か。私の質問に対し、アルダーソン委員長は「選手たちは国の威信をかけてプレーする。3月のハードワークにブレーキをかけるには、このルールが必要だった」と答えました。その後で「日本のように投手層の厚いチームには有利だと思うが…」と付け加えました。

 私にとって日本に有利か否かは重要ではありませんでした。ただ、「ハードワークにブレーキをかける」という点は大会が終わった後で理解できました。例年ならば調整段階の時期に真剣勝負に臨むことが、どれだけ選手に負担か取材を通じて伝わってきました。実際にWBCで故障してしまった選手もいます。選手生命にもかかわります。シーズン開幕前に大会を開催し、なおかつ選手を守るためには必要なルールだと感じました。

 もちろん理想はすべての指導者がブレーキ役を担うことでしょう。実際、プロ、アマを問わず、その役割を果たしている指導者も多いと思います。センバツ出場校の監督に反対意見が多かったのは、自らブレーキをかけられる自信があるからかもしれません。各地区を勝ち抜いてきたチームを率いている監督には、そういう力も備わっているでしょう。しかし、全体で見れば、なかなか難しいと言わざるを得ません。そうなると、やはりルールが必要になります。

 何球で制限を設けるかなど、具体的な話になると意見は無数に出るでしょう。投手によって個人差があるからです。横浜高校で春夏連続の日本一に輝いた松坂大輔投手のように技術も体力もずばぬけた投手もいれば、体も小さく、練習環境にも恵まれない選手もいます。球数制限によって投手が足りなくなるチームも出てしまうでしょう。どこに基準を置いて制限を決めるか、非常に難しい問題です。おそらく何球に決めても異論は出るでしょう。

 すべて丸く収まるルールなどありません。無責任なようですが、私も具体的に何球が適しているかは分かりません。ただ、選手の安全を守れる環境をつくってから議論をすべきだと思います。まずは球数制限を設けて登板過多にならない環境をつくります。その上で問題点を議論し、もっとも適したルールに改善していけばいいのではないでしょうか。

 長い時間をかけて、いつか球数制限などなくとも、すべての指導者がブレーキ役になってほしいと願います。ただ、そんな時代がくるまでに何人もの選手たちを犠牲にするわけにはいきません。

 高校球児の多くは、それこそ人生をかける意気込みで野球に臨んでいます。「たとえ、この腕が折れようとも…」と思って勝利を目指しているでしょう。1つの目標にかける青春は素晴らしいと思います。だからこそ、周囲の大人がブレーキ役になる必要があります。「もっと投げたかった」「続投できれば…球数制限さえなければ勝てた」と思うこともあるでしょう。しかし、言い方は悪いですが、ルールや指導者が、時には悪者になって恨まれてでもブレーキをかけてほしいと思います。

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飯島 智則 Iijima Tomonori
日刊スポーツ記者

1969年(昭44)横浜市生まれ。93年に日刊スポーツ新聞社に入社。96年から野球担当になり、98年は38年ぶりの日本一に輝いた横浜(現DeNA)を担当。00年には巨人担当としてONシリーズなども取材した。03年から2年間は大リーグ担当として松井秀喜選手に密着。05年からはNPB担当として球界再編騒動後の諸問題を取材し、11年から7年間、野球デスクを務めた。現在ベースボールマガジンでコラム「魂の活字野球学」を連載している。共著に小学生向けの「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」(旺文社)。18年12月には著書「イップスは治る!」(洋泉社)を出版。

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