【スコアブックの余白】Vol.5 東京ドームで史上初 8000人が参加した大規模な防災訓練の中身

スコアブックの余白

■試合観戦中にもしも大きな地震が起きたら…大事なことは?

 プロ野球が開幕し、スタジアムに大きな歓声が戻ってきた。準備を続けていたのは選手たちだけではなく、球団職員、球場職員も同じ。試合を楽しく見てもらうことも大事だが、観客の安全を守ることも大切。その想いが伝わる取り組みがあった。

 2024年3月20日の巨人ーロッテのオープン戦後、東京ドームでは、大規模有観客での防災訓練を実施した。試合後に関わらず、約8000人もの人数が参加。球団からの呼びかけや情報発信などもあり、内野スタンドには意識の高いファンが多く見られた。東京ドームで一般客を入れての防災訓練は初めてのことだった。

 今年の1月には、石川で震度7を観測した能登半島地震が起きた。関東大震災から100年ほど経過したが、記憶が風化されてはならない。いつ、どこで起きるかわからない事態に備え、今回の訓練は東京ドームの試合中に起きることを想定した。

 東京ドームで試合を観戦している時、耳にしていたフレーズがある。「東京ドームは地震に強い建物です」。この日、聞き慣れた言葉が本当に頼もしく聞こえた。

 訓練前にはオーロラビジョンで、災害への備えについてアナウンスされた。もしも、東京ドームで地震が起きた場合は冷静に、そしてその場に留まることが安全だということが伝えられた。警備スタッフは毎日、観客を落ち着かせるための声かけ訓練をしているという。

■ヴィーナスのパフォーマンスショーが一転…コンコースからは煙も

 訓練が始まった。巨人応援マスコットガールのヴィーナスによるパフォーマンスショーの時に、緊急地震速報が鳴り響いた。場内を不安が襲う。訓練とわかっていても、心臓が飛び出るかのようにアクションを起こしてしまう観客もいた。

 警備スタッフや場内アナウンスが観客に落ち着くように呼びかけていた。ビジョンがスコアから案内に変更される。交通情報や震源地など、目に情報が入りやすいように大きく表示されていた。

 コンコースの映像も映った。そこでは傷病者への対応がされていた。通路の飲食店から煙が出てきた。火災発生時の消火活動の訓練だった。思わず「リアル…」と言葉が漏れてしまった。応急救護所の設置などの訓練も実施。観客が出口で慌てて怪我をしないように各ゲートへの規制退場も実施した。約30分の訓練はこのような形で終えた。

 訓練参加者にはお礼の品や東京ドームグループ利用券が配布されるなど、主催者側への気遣いもあった。東京消防庁管内では過去最大規模な訓練を終え、防災意識の向上ができただけでなく、巨人や東京ドームが社会貢献活動を通じて、観客への安全面の配慮に日々、取り組んでいることがうかがえた。

楢崎 豊(NARASAKI YUTAKA)
2002年に報知新聞社で記者職。サッカー、芸能担当を経て、2004年12月より野球担当。2015年まで巨人、横浜(現在DeNA)のNPB、ヤンキース、エンゼルスなどMLBを担当。2015年からは高校野球や読売巨人軍の雑誌編集者。2019年1月に退社。同年2月から5つのデジタルメディアを運営するITのCreative2に入社。野球メディア「Full-Count」編集長を2023年11月まで務める。現在はCreative2メディア事業本部長、Full-CountのExecutive Editor。記事のディレクションやライティング講座、映像事業なども展開。

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