【スコアブックの余白】Vol.7 募集告知はインスタグラムだけ 部員が一気に集まった岡山ポニー・リグロスが人気の理由

スコアブックの余白

■岡山ポニー・リグロスの中田有治代表の理念

 野球人口の低下が叫ばれる中、それを覆すような勢いで人が集まった中学硬式野球チームがある。「岡山ポニー リグロス」が昨夏に日本ポニーベースボール協会の加盟承認を受け、2024年度よりチームとしての活動を始めた。代表の中田有治さんが募集を始めると県内で話題となり、1期生が定員に達した。

 チームを作ったきっかけは、2022年秋頃だった。小学生で野球をしていた長男が中学生になった時「入れたいと思うチームがなかった」から。任せられないというのが本音だった。中田さん自身も、大学まで野球をプレー。高校時代は甲子園にも出場した。だが、厳しさだけで支配された野球に今では疑問を持つ。子どもたちには心から本当に楽しい野球をしてほしいと願う。

 発足にあたり、いろいろなチームに話を聞きに行った。問題となっている指導者の怒声・罵声、保護者との関わりなど、親が負担になる部分も排除していく方針を決めた。古い慣習を疑い、令和の野球チームを目指した。そして一番、時代の変化に合わせた施策は募集方法だった。

 告知は写真投稿SNS「インスタグラム」だけで実施した。中田さんが仕事柄、普段から触っているスマートフォンの分野の知識を駆使して、プロモーションを行った。本来、学童野球や中学チームはポスターやチラシを作って、学校や地域、スポーツ店やバッティングセンターへ持って行くが、配布することはなかった。「インスタグラムだけで確実に集まると思っていました」と自信を持っていた。

 「お茶当番って本当に必要?」 「時代はもう令和なんだわ」。インスタグラムにはインパクトのある文字が並んだ。慣習を疑う『令和』のチーム作り、当番制なし、保護者会なしを明言。楽しく、野球ができるイメージが浮かぶ。1人目の部員は長男だったが、4人、10人と増えた。1年目は14人の募集予定だったが、申し込みが殺到。最終的には16人でスタートを切ることになった。

 野球離れに歯止めをかけたい思いもある。「時代に合ったチームが求められているのを感じました。選手に十分な水分を持たせれば解消されますし、指導者の水分も自分で用意すればいいと思います。選手たちだって、足りなくなった旨を申し出たり、次から考えて行動したりすることで、自主性をもって行動するようになります」と特別大きな問題にはなってはいない。

■中学生なので「楽しい」の意味を履き違えないように指導をする

 大変なことはグラウンドの確保だった。岡山リグロスに限ったことではないが、硬式球を使って練習、試合ができる場所は限られる。さらには他のチームとの兼ね合いがあり、既存のチームから譲り受けることはなかなか難しい。球場を割り振る側も、これまでの関係値から新しいチームを優遇するわけにもいかない。「関係各所に聞くと結構、曖昧な返事が多いですが、諦めずに突き詰めていっています」と子どもたちの未来のために、使えるグラウンドを確保している。

 他から反発する意見もあったが、県内に1チームあったポニーリーグ「倉敷ポニー リバティーズ」というチームから賛同を得られ、相談に乗ってもらった。こうして、ライバルを受け入れて、共存共栄していく姿こそ、誰のための野球なのかが伝わってくる。小中学生の野球の問題のほとんどは、大人が問題を作っている。子どもたちの未来を願うならば、邪魔をするのではなく、このような姿が望ましいのではないだろうか。

 チーム方針に楽しい野球が掲げられているが、その「楽しい」も意味を履き違いのないように指導をしている。人間としても、野球においても間違った言動は厳しく注意する。そこにフォローは欠かさない。保護者からも子どもが主体的に動くようになったという報告も受けた。このように野球が好きな選手が、気軽に楽しくプレーができる環境作りを積極的に取り組んでいる。

◼️岡山リグロス公式ホームページ
https://okayama-regroth.jp/

◼️Instagram 
https://www.instagram.com/okayama_regroth/?hl=ja

楢崎 豊(NARASAKI YUTAKA)
2002年に報知新聞社で記者職。サッカー、芸能担当を経て、2004年12月より野球担当。2015年まで巨人、横浜(現在DeNA)のNPB、ヤンキース、エンゼルスなどMLBを担当。2015年からは高校野球や読売巨人軍の雑誌編集者。2019年1月に退社。同年2月から5つのデジタルメディアを運営するITのCreative2に入社。野球メディア「Full-Count」編集長を2023年11月まで務める。現在はCreative2メディア事業本部長、Full-CountのExecutive Editor。記事のディレクションやライティング講座、映像事業なども展開。

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