国立競技場で行われた第103回全国高校サッカー大会決勝(13日)。
前橋育英(群馬)対流通経大柏(千葉)の対戦は、90分を1対1の同点で終え、延長戦に入っても決着がつかず、PK戦にもつれ込む大熱戦となった。
そのPK戦も9人が蹴って同点のまま。
結局、流経大柏の10人目が外したのに対し、前橋育英がこれを決めて死闘に終止符を打った。
ここまで来たら優勝を決めるためにPK戦をせざるを得ないが、内容的には両校共に優勝に値するサッカーを見せてくれた。
正月から本当に清々しい試合だった。
5万8千人を超える観衆もこの激闘に酔いしれたことだろう。
その中で印象に残る言葉があった。
前後半を戦って1対1の同点。
延長戦に突入する時に、テレビ中継の中で前橋育英・山田耕介監督(65歳)が選手へ掛けたコメントがリポートした。
この時、山田監督はこう言って選手たちをピッチに送り出したというのだ。
「俺なんか見なくていい。応援席を見ろ」
国立競技場の応援席では、試合開始からずっとベンチに入れなかったたくさんの部員たちと前橋から来た学生たちが休むことのない応援を続けていた。
山田監督は、その応援席を見て戦いに行けと伝えたのだ。
試合の中で監督が選手たちにアドバイスすべきことはたくさんある。
戦術的に上手くいっていなかったら、解決策を授けることもあるだろう。
相手の傾向や攻めるポイントがあれば、そこを語ることもあるだろう。
そうした場面で臨機応変に声を掛けることが、監督の大事な仕事ともいえる。
だから何が正解ということはないだろう。
問題は、どこを強調するかということだ
私はこの山田監督のコメントを聞いた時に、監督が伝えたい思いに触れて感心せざるを得なかった。
決勝戦ともなれば、言いたいことや伝えたいこともたくさんあるはずだ。
しかし、そうしたことをすべて削ぎ落して核心の一言を言うとなれば、これしかないと思った。
若い高校生といえども90分を戦って体力的にも限界にきているはずだ。
それでも最後のエネルギーを振り絞って延長戦に向かう。
そんな時にチカラをくれるのは仲間の応援だ。
そして、試合に出たくても出られない仲間がいることを思い出すことだ。
自分で自分を励ますだけでは限界がある。
そんな時に仲間の存在が元気と勇気をくれる。
65歳、学校長まで務めた山田監督は、そこに学生スポーツの魅力が詰まっていることをよく知っているのだ。
かける言葉の奥義は、エネルギーを与えることではない。
エネルギーが湧き起こる内面に灯をつけるのだ。
これも監督業の妙である。
令和の断面
青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。