テレビを見ていて、正直「これはダメだ。良くてプレーオフ、下手をすると逆転負けだな……」と思ってしまった。
4日に行われたパナソニックオープンレディース最終日(千葉浜野GC)。
一時は7アンダーに4人が並ぶ大混戦となったが、風に負けない力強いショットで後半、菅沼菜々選手(25歳)が2打差をつけて抜け出した。ところが17番でボギーを叩いた菅沼(10アンダー)は、最終18番を残して2位の大里桃子(9アンダー)と1打差になってしまった。
18番は197ヤード、パー3。距離のある難しいショートホールだ。
優勝に求められるのは、パー以上。
菅沼は第1打を5番ユーティリティーで打ってグリーンを大きくオーバーしてしまったのだ。距離は23ヤード、しかもボールはラフに入ってしまった。
このボール位置を見た時に、冒頭のように「これはダメだ」と思ったのだ。
これはゴルフと言わずスポーツ全般によくあることだ。
追い上げられている選手がミスをしてその差が詰まる。
するとこれを取り戻そうとして、いままでの余裕のある精神状態が変わってしまう。それは焦りでもあり、力みでもある。
こういうケースでそのプレッシャーを跳ね返してそれまでのペースを維持することは至難の業なのだ。
しかもボールはラフにあり、ショット自体の難易度もかなり高い。
クラブがボールの下に入れば、グリーンまで届かない。
ラフを意識してクラブが強く入ると厚く当ってグリーンを出て行ってしまう。
こうした場面でよくあるケースは、スイングがゆるんで中途半端になってしまうことだ。
この一打に優勝が懸かっている。
「絶体絶命」は、この時に使うべき言葉だろう。
ところが2度3度とスイングをした菅沼は、アドレスに入ると何の躊躇(ちゅうちょ)もなく、このボールを実にゆったりと絶妙のバランスで振り抜いたのだ。
ボールはふわっと上がるとグリーン上に落ちて、カップに向かってきれいに転がり出したのだ。
これ以上ない完璧なショット。
ボールはカップの手前40センチでピタッと止まり、見事にパーをセーブした。
去年はひざの故障に加えて、肺炎での入院も経験。
11月に行われた今季の出場権を争う予選会でも102位に沈んだ。
「どん底に落ちたから練習しても同じ」と1か月半クラブを握らなかった。
しかし、これも悪い癖を抜くための工夫だった。
今シーズンは、良い時のスイングを思い出し、もう一度、一からスイングを作り直した。そしてつかんだ2年ぶり3度目の優勝。
彼女は18番のアプローチについてこう語っている。
「ゆるんだら悔いが残る。後悔しないようにしっかり(ウエッジの)フェイスを開いて打ちました」
「しっかり打つ」これができるようでできないのだ。
菅沼は「今までやってきたことを信じて打った」とインタビューで目を潤ませて言った。
そう、何事も最後は自分を信じて思い切りよくいくしかないのだ。
勝負強い菅沼菜々が帰ってきた。
令和の断面