(データの技術革新が止まらない野球界)
■同じリリーフ投手でも、任されるイニングが変わるとどう変わるのか?
リリーフ投手の配置転換ほど、選手にとって複雑な感情を抱かせるものはないだろう。特に9回のクローザーから他の回に移る時の心境は、想像するだけで胸が苦しくなる。今季もチーム方針で、クローザーだった投手が8回を担ったり、セットアッパーだった投手がクローザーになったりするケースが見られる。表向きは「チームのため」と言うけれど、本人にとっては自分の価値を問われるような出来事でもある。
試合終盤における各回の役割には明確な違いがある。7回は中継ぎの中心的存在で、先発投手から9回のクローザーへの橋渡し役を担う。8回はセットアッパーと呼ばれ、試合の流れを決定づける重要な場面を任される。9回のクローザーは最終回を締めくくる絶対的エースで、最もプレッシャーがかかるポジションだ。回が進むにつれて責任の重さが増し、求められる精神力と技術レベルも段階的に高くなっていく。
9回を任されるということは、単なる野球の一場面を超えた特別な意味を持つ。ファンの期待、チームメイトからの信頼、そして何より自分自身のプライド。すべてが最高潮に達する中で、最後の3アウトを取る責任を背負う。この重圧は他の回では味わえない独特なもので、だからこそクローザーは球界でも別格の存在として扱われる。
7回や8回となると、意味合いが大きく変わってくる。9回のような絶対的な立場ではなく、あくまで「つなぎ」の役割。しかし、だからこそ逆に難しい。失敗すれば後続に迷惑をかけるという心理的プレッシャーがあり、自分の存在価値を毎回証明しなければならない不安定な立場に置かれる。さらに登板機会が増えることで体力的な負担も大きくなり、一球一球に集中する難しさが格段に上がってしまう。
配置転換を経験した投手を見ていると、肉体的な負担の変化も大きいことが分かる。9回だけに集中していた頃は、その一場面に向けて完璧に調整できていた。ところが7回や8回を任されるようになると、肩を作る回数が増え、様々な場面に対応しなければならない。毎日のように登板機会があるリリーフ投手にとって、この調整の難しさは想像以上に厳しいはずだ。
心理面での切り替えも簡単ではない。クローザーとして培ってきた「絶対に抑える」という気持ちを、「つなぐ」という役割に変換するのは至難の業だ。もちろん中継ぎにも責任はあるが、最終的な責任を負うのは9回の投手。この違いを受け入れ、新しい役割で力を発揮するには相当な精神力が必要になる。
配置転換で最も大変なのは、周囲からの見られ方の変化だろう。ファンやメディアは「降格」と捉えがちだが、実際はチーム事情や戦術的な判断が絡んでいることが多い。それでも本人にとっては、自分の価値が下がったように感じるのは当然だ。この複雑な感情と向き合いながら、新しい役割で結果を出す強さが求められる。
体調管理の方法も根本的に見直さなければならない。9回だけの時とは違い、様々な場面での登板に備えて常に準備を整えておく必要がある。食事や睡眠のタイミング、トレーニングの内容まで、すべてを再構築する作業は本当に大変だ。長いシーズンを乗り切るための新しいルーティンを確立するのに、相当な時間がかかるはずだ。
大切なのは、配置転換を成長の機会と捉える前向きな姿勢だろう。確かに最初は戸惑いもあるかもしれないが、新しい役割で成功すれば、より幅広い場面で頼られる投手になれる。9回だけでなく、様々な場面で力を発揮できる投手は、チームにとって本当に価値のある存在だ。配置転換は投手にとって試練だが、同時に新たな可能性を開く扉でもある。