スコアブックの余白

Vol.32 夏の主役たちへ 一瞬で駆け抜ける季節を楽しんで

SHARE 
  • 連載一覧へ


    ■主役は試合に出ている選手だけではない 

     各地で甲子園全代表49高校を決める熱戦が繰り広げられている。メディアに携わる人間として、みんなが思っていることだが、予選とは表記しないという暗黙のルールがある。ひとつの立派な大会であり、地方大会に向けて、全力を尽くしてきた選手、保護者、監督、指導者だっているからだ。それぞれの地方大会にはそれぞれの物語がある。

     いつもこの時期が来ると思う。主役はあなたですよ、と伝えたい自分がいる。試合に出ている選手だけではない、ランナーコーチを含む控えのベンチ入りメンバー、メンバー外のボールボーイ、スタンドで応援する選手、マネージャー、そしてその家族や兄弟、保護者もそう。友達だっていい。誰一人かけても夏のドラマは成立しない。それぞれが大切な役割を担っている。

     負けないで終わる学校は甲子園優勝の1校しかない。ほとんどの高校が敗者となる。遅かれ早かれ。負けたら今は本当に悔しいと思う。涙が止まらないと思う。本気で打ち込んできたから。練習に真面目に取り組まなかったことも後悔する時もくると思う。でもそれも野球や部活と真剣に取り組んできた部分があるからの後悔だから、決してマイナスだけではない。

     強豪校も甲子園を目指していたが、地方大会で敗れるケースも多くある。泣くなとは言わない。むしろ泣いてもいい。高校野球はこれで終わりではなく、この先の人生でどう活かすが大事。仕事で野球を見てきたから、わかる。卒業して何年たってもこの2年半の記憶が色褪せることはない。もちろん、その記憶の箱を自分の手であえて開けない人もいる。それもまた人生です。

     そして、今年はとにかく暑い。高野連も様々な対策を打ってくれている。甲子園の開会式を午後4時からに変更し、選手の負担軽減を図った。また2部制を6日間実施し、午前と夕方に分けて試合を行うことで、最も暑い時間帯を避ける工夫をしている。昨年の経験を踏まえ、選手の活動時間短縮や体調管理に配慮した画期的な取り組みだ。大人たちはいろいろと夢の実現と安全のために考えてくれている。だから精一杯、その瞬間、瞬間を味わってほしい。

     誰かが言っていた。最高のパフォーマンスが出るのは、良い緊張感の中で、楽しもうとすること。ガチガチではいいパフォーマンスは生まれないよ、と。2023年WBCの侍ジャパンで大谷翔平選手がそのお手本。失敗したっていい。そこで人生は終わらない。この夏の経験が、きっと人生の宝物になるから。とにかく一瞬で駆け抜けてしまう夏を楽しんでほしい。

    関連記事