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スポーツと⼈を繋ぎ、社会に貢献する仕事⼈、経営者インタビュー

Vol.2 宮國椋丞がビジョントレーニングに挑戦 知ることができた「目の癖」とは?

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    (ビジョントレーニングを受ける宮国椋丞さん、左は新井啓介氏)

    VT LAB.(ビジョントレーニング研究所)代表の新井啓介氏と対談

    スポーツと人を繋ぎ、社会に貢献する仕事人、経営者を紹介するアスリート街.comの企画。アンバサダーを務める元読売ジャイアンツ・横浜DeNAベイスターズの宮國椋丞さんが今回、挑戦したのは、VT LAB.(ビジョントレーニング研究所)代表の新井啓介氏のセッションだった。プロアスリートでさえ気づかない「目の癖」とは何か。そして、その改善がどれほどの変化をもたらすのか。スポーツ界で注目を集めるビジョントレーニングの専門家・新井氏の指導のもと、宮國さんが体験した驚きと発見の世界を3回に分けてお届けする。

    「誰でも目の癖があるんですよ。その癖がちょっと今見えましたよ」

    新井氏のこの一言から、宮國椋丞さんのビジョントレーニング体験が始まった。マークを使った簡単なチェックで、宮國さんの目は「外に行きやすい」傾向にあることが判明。この何気ない癖が、実はスポーツパフォーマンスに大きな影響を与えているという。

    目の動きには個人差がある。「目が外に行きやすい人、うちに寄りやすい人、または上下斜めに動く人がいます」と新井氏は説明する。これは、両目の視線を一点に合わせる際の癖を指している。外斜位(がいしゃい)と呼ばれる外向きの傾向や、内斜位(ないしゃい)の内向きの傾向、さらには上下方向のずれなど、人それぞれ異なる特徴があるのだ。

    宮國さんの場合は「外にちょっと行きやすい」傾向があることがわかった。

    この特徴は現代人、特にパソコン作業をする人に多く見られる。「外に行きやすい方の場合、近くを見るときに内に合わせなきゃいけないですが、内に寄せるパワーをさらに使わなきゃいけないんです」

    長時間この状態が続くとどうなるのか。「その時間が長いと、とても疲れやすくなる。眼精疲労が徐々に出てくるかもしれないですね」と新井氏は警鐘を鳴らす。

    問題は疲れているときやぼーっとしているときに顕著に現れる。「目の位置が外にちょっと行っちゃって、違うところを見てしまうので、物が二つに見えたり、焦点が合いづらくなったりします」

    この現象がスポーツにどう影響するのか、新井氏は実際の検証で示すことにした。

    ■距離感の正確性を左右する両眼視

    (宮國さんに説明をする新井啓介氏)

    驚いたのは、ペンを使った距離感の実験だった。両目で見ているときは正確にペン先をもう一つのペン先に乗せられた宮國さんだが、左目を隠すと明らかにずれが生じた。

    「基本的に両目で見ているから距離感が取れるんですね。片方の目だけでしか見ないと、距離感が取りづらくなります」

    この原理は野球の場面でも重要だ。どのスポーツでも当てはまるが「ボールがこういうふうに迫ってくるときの距離感で微妙に誤差が出てしまうことがある」と新井氏。投球や打撃における微細なタイミングのずれは、この視覚の問題が原因かもしれない。

    新井氏による診断では、宮國さんの視覚能力について興味深い評価が示された。「正面の目の動かし方はとても良いが、下の部分がやや弱く、両眼のバランスが崩れやすい」という。特に重要なのは「一つのものを見るスタミナをつけること」だという。

    この診断は、宮國さんがゴルフで感じている課題とも一致した。「トップしたりすることもあるので、自分の感覚とちょっとギャップがある感じはします」

    新井氏は即座に関連性を指摘する。「下の部分って結構重要なところじゃないですか。ゴルフもそうですけど。外にちょっと行きやすいんで、下に寄せるっていうパワーをより使わなきゃいけないというのはあります」

    プロの一軍で活躍した選手でも、目の癖によってゴルフでは別の課題が生まれる。両眼のバランスとスタミナの問題は、あらゆるスポーツに共通する根本的な課題なのである。

    ■脳が選ぶ「楽な方」の落とし穴

    「人って結構脳が楽な方に行っちゃうんですよ」と新井氏。物が二重に見える人でも、脳が一つを隠してしまう「抑制」という現象が起こることがある。この「楽な方」を選ぶ傾向は、姿勢や体の動きにも影響を与え、最終的にパフォーマンスの低下につながる。

    アスリートにとって重要なのは、この無意識の癖に気づき、意識的に修正していくことだ。筋力や技術だけでは補えない、視覚の根本的な問題を解決することで、より高いレベルのパフォーマンスが期待できる。

    「リセットすることはできないですか?」という宮國さんの質問に、新井氏は「強化はできます」と答えた。近くと遠くを見るトレーニングや、目の動きを意識的に練習することで、生まれ持った癖を改善できるという。

    eスポーツ選手も同様の問題を抱えており、画面を長時間見続けることによる眼精疲労や距離感の問題に対して、ビジョントレーニングが効果を発揮している。

    現代社会において、視覚の問題は決してアスリートだけの課題ではない。私たち一人ひとりが持つ「目の癖」を知り、適切なトレーニングを行うことで、日常生活の質も向上させることができるのだ。

    【プロフィール】 新井啓介(あらい・けいすけ) VT LAB.代表/視能訓練士。一般社団法人アイケアウェルネスジャパン理事、日本視覚能力トレーニング協会理事。2006年に視能訓練士資格を取得。都内眼科を経て千葉県で臨床に従事し、年間7000人超の検査・矯正に対応。アスリートから子どもまで、眼・脳・身体の連動を高めるビジョントレーニングを指導。学校や地域でのグループ指導も実施。監修協力も行う。

    公式ホームページはこちらから
    眼と脳と身体の機能を連動させる ビジョントレーニング研究所
    https://vtlab.jp

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