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スポーツと⼈を繋ぎ、社会に貢献する仕事⼈、経営者インタビュー

Vol.4 子どもから始められるビジョントレーニング 宮国椋丞対談(最終回)

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    (VT LAB.代表の新井啓介氏が伝えるビジョントレーニングの大切さ)

    ■楽しく続けて一生モノの「見る力」を身につける

    「目の癖」「軸」を学んだ最終回は実践編。VT LAB.(ビジョントレーニング研究所)代表の新井啓介氏が、元プロ野球選手の宮国椋丞さんに伝え、それを学ぶ体験会レポート最終回。新井氏が実際に指導している幅広い年齢層への対応法から、家庭で今すぐ始められる簡単メニューまで、一生使える「見る力」の育て方を紹介する。

    「楽しいって思わせることが僕の中ではまず大切ですね」

    新井氏が最も重視するのは、トレーニングの楽しさだ。宮國椋丞さんとの体験セッションでも、「楽しかった」という言葉が何度も出てきた。実際、新井氏の指導を受ける人の年齢層は驚くほど幅広い。

    「小さなお子さんからご高齢の方まで、その幅は広くトレーニングができます」

    新井氏の経験では、2歳、3歳といった幼児でも「ライトをタッチしようとして頑張って動いたりします」という。もちろん本格的なトレーニングとしてではなく、遊び感覚で楽しみながら目と体を動かすことから始まる。一方で高齢者や認知症の方にとっても、このトレーニングは重要な意味を持つ。

    「認知症の方だと、目の情報がいかに脳へスムーズに入ってこないかで認知症も進むって言われています」

    つまり、視覚情報の処理能力を維持することが、認知機能の維持にもつながるということだ。

    ■負けず嫌いな子どもたちの反応

    (トレーニング中は宮國さんにも笑顔が)

    「先日、子どもたちにこれをやってもらったら、もうみんな楽しくて。しかも負けず嫌いの子たちって、実際できるまでやろうとします」

    子どもたちの反応から、新井氏は指導する側としても多くを学んでいる。「負けず嫌いとかも見られるので、教える側としては、その人の性格も見られるポイントでもあります」

    ビジョントレーニングは特別な器具がなくても始められる。お手玉やテニスボール、ゴルフボールなど、身近なものでジャグリングの練習ができる。

    「お手玉でもいいですし、テニスボールでもゴルフボールでも何でもいいです」

    重要なのは、物が変わったときの対応力だ。「物が変わると上げ方が変わります。その変わった瞬間に自分が対応できるかっていうのはすごく重要です」

    より高度なトレーニングとして、目を閉じて足を前後にして、片足で10秒間立つ練習がある。「お子さんの中で耐えられる子ってなかなかいないかもしれません」というように、大人でも意外に困難だ。

    慣れてきたら、目を瞑りながら体を横に揺らして真ん中で止める練習もできる。これらのトレーニングにより、視覚に頼らない身体感覚を鍛えることができる。

    「体の準備運動と同じように、目の準備運動っていうのはしっかりしてもらわないといけません。目の準備をすることで、見ることのスタートが早くなります」

    新井氏が指導するアスリートたちは、必ずこのトレーニングから始める。体の準備運動は当たり前だが、目の準備運動という概念は新鮮だ。

    宮國さんも「明日ピッチング練習させる前にやってみよう」と意欲を見せた。F1レーサーが競技前にジャグリングをするように、どんな競技でも「見る力」のウォーミングアップは有効なのだ。

    ■継続の秘訣は楽しさ

    「楽しいと思わないと次につながりません。やろうとしないし、継続しません」

    新井氏が最も大切にするのは、この継続性だ。アスリートであっても、楽しくなければ続かない。まして一般の人にとっては、楽しさこそが最大のモチベーションになる。

    ジャグリングについては科学的な裏付けも出てきている。「ジャグリングすることによって脳のシナプスが増えていくっていう論文も出てきています」

    年齢とともに減少するシナプスを増加させることができれば、それは運動能力だけでなく、認知機能の向上にもつながる。

    「レベルアップっていうのもそうなんですけど、本人が本来持っているものをどう生かすか、生かせるかっていうところのトレーニングです」

    新井氏のアプローチは、新しい能力を身につけるというより、誰もが持っている能力を最大限に引き出すことだ。「プロになる人とならない人の一番の違い」も、小さい頃の神経系の発達にあるが、「元々持ってるはずですから、ちょっと眠っていただけです」という。

    宮國さんの体験を通じて見えてきたのは、ビジョントレーニングが単なるスポーツ技術の向上ではなく、人間の持つ潜在能力を引き出す総合的なアプローチだということだ。

    2歳の子どもから高齢者まで、そしてプロアスリートから一般の人まで、すべての人が「見る力」を向上させることで、より充実した生活を送ることができる。それがビジョントレーニングの真の価値なのかもしれない。

    【プロフィール】 新井啓介(あらい・けいすけ) VT LAB.代表/視能訓練士。一般社団法人アイケアウェルネスジャパン理事、日本視覚能力トレーニング協会理事。2006年に視能訓練士資格を取得。都内眼科を経て千葉県で臨床に従事し、年間7000人超の検査・矯正に対応。アスリートから子どもまで、眼・脳・身体の連動を高めるビジョントレーニングを指導。学校や地域でのグループ指導も実施。監修協力も行う。

    公式ホームページはこちらから
    眼と脳と身体の機能を連動させる ビジョントレーニング研究所
    https://vtlab.jp

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