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Vol.41 2026年 楽天イーグルス 計算できる戦力と「日米の知」が成す新境地

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    ■宗山塁が導く若手の台頭と、ボイトら規格外の大砲が並ぶ打線

     2025年パ・リーグ王者のソフトバンクは依然として層が厚く、若手の台頭で勢いに乗る日本ハムも高いチーム力を誇る。2026年のパ・リーグはこの二強が中心と目されるが、西武もFA戦士の加入と補強をし、ロッテもサブロー新監督のもと、強いマリーンズへ牙を研ぐ。オリックスも若手が伸びて、覇権奪回を狙う。その包囲網を破る存在として楽天も侮れないと見る。投打に「計算できる戦力」が揃い、上位争いへ食い込む準備は完全に整った。

     2026年の楽天は、高い完成度を誇るチームへと進化を遂げる予感が漂う。劇的な新旧交代が進行する中、投打ともに「計算できる戦力」が盤石に揃っている点にある。まず攻撃陣の起点となるのは、リードオフマンの中島大輔外野手。中島が作った流れを、2025年にベストナインに輝いた宗山塁、そして最多安打を獲得した村林一輝が繋ぎ、主砲へと託す上位打線の形成こそが大きなポイントだ。

     注目の中軸には、2020年にヤンキースでア・リーグ本塁打王に輝いたルーク・ボイトが座る。2025年は7月からの合流で13本塁打を放っており、その実力は実証済みだ。ここに身長203センチの大砲マッカスカー、さらに二塁に定着した黒川史陽が加わる打線は、リーグ屈指の破壊力を誇る。計算できる得点源が確立されたことで、相手投手にとって一息つく暇もない。

     前田健太の加入と即戦力右腕の台頭が、投手陣を劇的に変えそうだ。エース早川隆久に加え、ここに成長著しい左腕の古謝樹、さらに2025年ドラフト1位の藤原聡大、2位の伊藤樹という即戦力投手が加わった。さらには日米通算の豊かな経験を持つ前田健太がローテーションに加わった意義は極めて大きい。前田がマウンドで見せる老練な投球術は、チームに揺るぎない安心感をもたらす。左右のバランスが取れた先発ローテーションの厚みは、今や12球団でもトップクラスの陣容となっている。

     このチームの真の強さを支えているのが、バックアップ層の充実だ。ベンチには浅村栄斗や鈴木大地といった、実績・経験ともに申し分ない選手たちが控えている。勢いのある若手が攻め、勝負どころでは百戦錬磨のベテランが確実に仕事を果たす。現在の楽天には、長いペナントレースを戦い抜くための「計算できる駒」が理想的な形で揃っている。

    ■三木肇監督の眼差しは秋の歓喜の瞬間へ

     2013年以来の悲願が叶わずにいる背景には、根深い構造的課題が存在していたように映る。投打における「絶対的な柱」の不在だった。投手陣では、圧倒的な貯金を作れる先発陣の層が薄く、次代のエース候補の台頭が待たれてきた。打線においても、長年ポイントゲッターを浅村栄斗に依存する形が続き、自前で育てた「和製大砲」がクリーンアップに定着しきれなかった。得点力が主力のコンディションに左右されやすく、特定の選手が不調に陥った際のバックアップ体制の欠如が、勝率を押し下げる要因となっていたのである。

     三木肇監督の眼差しは、かつてないほど鋭く、そして温かい。長い時間、コーチ時代からチームを見る監督が掲げる緻密な野球は、単なる作戦の遂行にとどまらず、選手一人ひとりが自律して動く「考える野球」へと進化を遂げているようにも映る。近年の楽天は2013年当時の星野仙一監督が植え付けた「東北のために」という熱い魂と、現代野球の「データと論理」をいかに融合させるかが最大のテーマと見ていた。前田健太という生きた手本を若手投手の輪に投じ、宗山や中島といった新星に失敗を恐れぬ勇気を与えたのは、彼らの成長こそが「計算以上の力」を生むと確信しているからに他ならない。

     泥臭いまでの「1点への執念」――。力をつけた打線という武器を持ちながらも、スコアブックには現れない細部の徹底。かつて二軍監督として苦楽を共にした選手たちが、主力として泥にまみれる姿に、三木監督は自身の歩んできた道の正しさを感じているのではないだろうか。2013年の優勝から13年。東北のファンが待ち望んだ「強いイーグルス」の完成を、自らの手で、そしてこの愛着ある教え子たちと共に成し遂げる。その覚悟は、静かな語り口の裏側で、確かな熱量となってチーム全体を突き動かしている。

     2013年の日本一以来、これほどまでに投打の歯車が噛み合った布陣があっただろうか。東北に再び栄冠がもたらされる、そんな確信に近い期待を抱かずにはいられない。激動の2025年が終わり、2026年が始まる。連覇がかかるWBCやドジャースの大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希のさらなる飛躍はあるのか、村上宗隆ら新たに海を渡るメジャーリーガーの活躍、NPBからの新スターの活躍など、今から楽しみでならない。野球ファンが心躍る一年になることを願っている。

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