(日本の少年野球では2029年からバットのルールが変わる・写真はイメージ)
■「子どもの未来」を守る改革か、現場の混乱を招く規制か
少年野球の世界で、大きな転換期が訪れている。全日本軟式野球連盟が打ち出した新ルールは、現場に賛否両論を巻き起こしている。2029年からの「複合型バット全面禁止」と「投手と捕手の兼任規制」。いずれも「子どもたちの安全」を掲げているが、その影響は用具やポジションの問題だけでは済まない。
投手と捕手の兼任を制限する狙いは、特定の選手への過度な負担集中を避けることにある。成長期の子どもたちの身体的負担を軽減する。野球の中でも最も消耗が激しい二つのポジションを一人が担い続けるリスクは、確かにある。
ただ、現実的な課題も多い。選手層の薄いチームでは、投捕両方をこなせる選手がチーム編成の要になっている。人数不足に悩む地方のチームにとって、戦力編成の自由度が大きく制限される。安全という大義名分の下で、現場の創意工夫が損なわれるのではないか。
エースで四番という「チームの中心選手」が投手と捕手を兼ねることで、野球の面白さや達成感を味わっている子どもたちもいる。規制によって、そうした経験の機会が奪われる。
■飛ぶバットの終焉がもたらすもの
2029年から小・中学校の軟式野球では、打球部にウレタンやスポンジなどの弾性体を使った複合型バット、いわゆる”飛ぶバット”が使えなくなる。コロナ禍以降に爆発的に普及したこの道具が、わずか数年で姿を消す。
影響はすでに数字に表れている。2025年から一般用複合型バットの使用が禁止された全国大会では、本塁打が前年比で50パーセント以上も減少した。外野を越えていく痛快な打球が、内野ゴロに変わる。非力な子どもたちにとって、野球の醍醐味の一部が失われるかもしれない。
一方で、複合型バットの弊害もある。1本4万円以上という高額な価格設定は、家庭間の経済格差を野球の世界に持ち込んだ。打球速度の劇的な向上は、守備側の選手にとって危険を伴う場面も増やした。全軟連の判断には、一定の合理性がある。
木製バットと複合型バットを併用した練習で、ルールが変わっても長打力を育成できる体制を整えているチームもある。規制に順応しながらも、独自の工夫を続ける。
他方で、規制そのものに距離を置く指導者もいる。全軟連に非加盟で活動するチームや独自大会が増えている現状を踏まえ、ルールに従うことより子どもたちに野球の魅力を伝えることを優先すべきだと考える指導者は少なくない。
投捕兼任規制と複合型バット禁止。二つのルール変更に共通するのは、「安全」という大義名分と、現場の実情とのギャップだ。規制によって守られるものがある一方で、失われるものもある。
ルールに振り回されるのではなく、どんなルールの下でも、子どもたちが野球の魅力に気づき、夢中になれる環境をつくる。それが指導者の役割だろう。
3年後、野球場の風景は変わる。その時、子どもたちの目に輝きがあるかどうか。それが、この改革の成否を測る真の尺度になる。
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楢崎 豊(NARASAKI YUTAKA)