9月13日から21日まで東京・国立競技場で陸上競技の世界選手権東京大会「世界陸上」が行われる。東京五輪では残念ながら無観客で行われた国立競技場での各種競技だが、今回はフルにお客さんを入れての国際大会となる。前売り券も順調に売れているとのことで、その盛り上がりに期待が膨らむ。
そんな中、世界陸上をさらに楽しみにしてくれる記録が生まれた。
3日、山梨・富士山の銘水スタジアムで行われた「陸上富士北麓ワールドトライアル」で桐生祥秀選手(29歳、日本生命)が、今季日本人最速の「9秒99」をマークしたのだ。
桐生選手が日本人初となる9秒台を出したのは、2017年のこと。
その時の「9秒98」以来、なんと8年ぶりに9秒台で走って見せたのだ。
この記録により東京大会の参加標準記録(10秒00)を突破し、19年ドーハ大会以来3大会ぶりの日本代表入りが確実になった。
この日は、追い風1.5メートルと絶好のコンディション(追い風2メートルまでが公認記録)。
近年は、痛い時は歩けないほどのアキレス腱痛に悩まされてきた桐生だが、その痛みも癒えて、何の不安もなく走れるようになったことが復活の大きな要因になっている。また最初は違和感を覚えた厚底のスパイクも、いまではすっかり慣れたことも復調の推進力になったようだ。
桐生選手と言えば、母校の環境が有名だ。
進学した京都の洛南高校は、直線が80メートルしかなく、母校のトラックでは100メートルを走れなかったのだ。しかし、こうした環境にもかかわらず当時の高校記録を連発していたところに100メートルの競技性がよく表れていると言えるのだろう。
それはこの競技がスタートとその後の中間走で勝負が決するということだ。
例えば、かつての日本記録保持者である朝原宣治さんは、スタートが苦手だったので、意識していたのは「スタートからの前半の走りだけ」と言っていた。
同じく大阪ガス陸上部の後輩にあたる江里口匡史選手(日本選手権4連覇)は、スタートのことは考えずに50~60メートルの中間走でトップスピードにもっていくことだけを考えていると言っていた。
走りのタイプはまったく違うが、二人に共通するのはその意識が前半にあるということだ。
桐生選手がどこを意識しているのかはわからないが、80メートルしかないところで練習をしていたのだから、どちらにしても前半にポイントがあることは間違いないだろう。
100メートルは、実は繊細な競技だ。
自分の意識が外に向かってしまったとたん思うように走れなくなる。例えば記録のこと、あるいは周りの選手のこと。集中すべきは自分のことだけ。それは何事にも共通することだろうが、その集中の条件が整わない限り自分自身の限界を越えていけない競技なのだ。
100メートルのおもしろいところは、誰かが好記録を出すとそれにつられるように次々と記録が生まれることだ。
日本記録保持者のサニブラウンも桐生の復活に刺激を受けることだろう。
これで東京大会の男子100メートルが、俄然楽しみになってきた。
決勝は大会2日目、9月14日の夜10時20分だ。
令和の断面
青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。