連日の好記録、好レースで盛り上がりを見せる陸上競技の世界選手権、通称「世界陸上東京大会」。
大会開幕を前にした記者会見で、こみ上げる思いのあまり泣いてしまった有森裕子日本陸上競技連盟会長。
その様子を見て「感激屋の有森さんらしいな」と思っていたのだが、大会初日に観戦に行った国立競技場で久しぶりに有森さんにお会いすることができた。
世界中から陸上関係者をお迎えするホスト役の有森会長。
VIP席で来客に忙しく対応されていたが、たまたまそのVIP席のすぐ下に座っていたので運よく声を掛けることができた。
「あ、泣き虫の会長だ!」と私が言うと「そうなんですよ。主催者が一番先に泣いてどうするんだって怒られちゃいました(笑)」と有森さん。
彼女とは、これまでいろいろな場所(仕事)でご一緒させてもらっているので、この日もいつも通り気軽に声を掛けた。
そんな有森さんとの話で忘れられない言葉がある。
それは1997年「世界陸上アテネ」でご一緒した時のことだ。
私は、TBSテレビのキャスター、有森さんは解説者として現地にいたのだが、そこで有森さんはマラソンのレースを前にこんなことを言ったのだ。
「青島さん、マラソンはスタートラインについた時にもう順位は決まっているんですよ」
それは灼熱のアテネでのレースだったので、その意味することが実感としてもよくわかった。
読者のみなさんには、もう余計な説明はいらないと思うが、念のため少しだけこの言葉について書いておこう。
まず、有森さんは極端な運命論者ではない。
レースの結果は、「神のみぞ知る」的なことを言っている訳ではない。
その意味するところは、まったく逆のことだ。
マラソンのすべては、当事者たる人によって決まる。
レースを迎えるに当たって、どれだけ練習してきたのかで結果が決まると言っているのだ。
42.195キロを走り切る過酷なマラソンは、小手先の技術で乗り切れるほど甘くない。もちろんレース中の駆け引きや全体を走り切る戦略的なプランも必要だが、それすらもそれを実践できる準備をこなしていなければ、やってのけることはできない。
また、レースを前にじたばたしても仕方がないという精神的な落ち着きを持つためにもこの考え方は有効なのだろう。
もう結果は決まっているのだから、養ってきたチカラを出し切ろうと思うことで自信を持って走ることにもつながるのだ。
本番を前にあれこれ考えても仕方がない。
ここまで来たら、自分がやってきた準備を信じて、思いっきりぶつかっていく。これは何事にも通じる、大事な場面での対処法とも言えるだろう。
記録を意識すればするほど、記録が出ないのはスポーツの不思議であり、人が為すことの常だ。
自分を信じて、目の前の課題にぶち当たっていく。
連日、世界陸上が教えてくれるのは、そういうことなのだと思う。
令和の断面
青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。