令和の断面

vol.279 山本由伸を支えるノートの存在

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     日本中を歓喜の渦に巻き込んだドジャースのワールドシリーズ制覇。
     もちろんブルージェイズを応援していた人もいるだろうが、大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希という3人の日本人主力選手を擁するドジャースの動向を多くの人が気にしていたことだろう。
    
     最終7戦までもつれ込んだドジャース対ブルージェイズの熱戦。
     第7戦も延長戦に突入し、4対4の同点で迎えた延長11回表、スミスの勝ち越しホームランでドジャースが1点をリード。その裏の攻撃を山本が抑えてドジャースが初のワールドシリーズ連覇を成し遂げた。
    
     このシリーズは、攻守、好打の連続でドジャースには日替わりでヒーローが現れたが、7戦で3勝をあげた山本の「MVP」受賞は誰もが認めるところだろう。
    
     山本のすごさは、抜群のコントロールや豊富な変化球など技術的にいくつも上げられるが、私たちに関係するところ(真似ができること)であげるとすれば、それは彼が投球の度にベンチでその内容をノートにメモしていることだろう。
    
     テレビの中継などでも、ベンチに置かれている山本のノートが映る時があるが、日本にいるオリックス時代からノートへの書き込みは始まっているようだ。
    
     マウンドでのピッチングを終えてベンチに帰ってくると、山本はすぐその場で気が付いたことをノートに書く。
     技術的なこと、精神的なこと、相手の特長、自分の状態、その他さまざまなことを書いているようだが、その詳細は知らない。
     ただ、本人はそのノートを常に見直してやるべきことを確認しているという。
    
     これは本当に素晴らしいことだと思う。
    抑えた瞬間、打たれた瞬間、その時に思ったことは強く印象に残ったりするが、多くのことは時間が経つと忘れてしまう。
     そうしたことのほとんどは忘れてもいいようなことかもしれないが、中には絶対に忘れてはいけないこと、また次の戦いに有効なことが必ずある。
     そのことを山本はしっかりと書き留めているのだ。
    
     シリーズ3回目の登板となった第7戦。
     この時のピッチングを山本はこう振り返っている。
    
     「とりあえず、不用意な投球というか、例えばゾーンに入れていくような投球だけはやめようと。基本のことですけど、そこを意識して、高さだったり、コースだったり、そこに集中して、何とか投げました」
    
     こういう大事な場面で何を注意して投げなければならないか。
     それを「基本的なこと」と言い切れるほど整理されている。
     こうしたことは、これまでの経験を詳細に書くことで頭の中にしっかり残っているのだ。
    
     最後の打者カークを打ち取った場面も計算通りだった。
     1アウト1塁3塁。一打同点、長打を浴びれば逆転につながるピンチだ。
     そこで山本が最後に投げたボールは、外に逃げていくスライダー。
     これを長打が欲しいカークは、強引にひっかけてショートゴロに。
     ベッツがこれをさばいてダブルプレーでゲームセット。
     この一球も計算されたボールだった。
     きっとノートには、何度も登場する場面だろう。
     そこで抑えた経験、打たれた経験がカークへの投球の精度となって表れる。
    
     山本のこの一球に、私はこれまで書いてきたノートの力を感じた。
     書くことで忘れない。些細なことを積み重ねる。
     その姿勢が今の山本を作り上げてきたのだ。
    
    
    

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