先週に続いて「安青錦(あおにしき)」の第二弾である。先週の段階では横綱・大の里が全勝を守り万全の体勢。いくら調子の良い安青錦でも優勝までは届かないだろうと思っていた。ところがその後の大の里との一戦では自身が勝って横綱に土をつけ、もう一人の横綱・豊昇龍にも勝って千秋楽は大の里、豊昇龍、安青錦が3敗で並んだ。安青錦は、大関・琴櫻、そして結びで両横綱が激突する組み合わせだった。ところが安青錦戦で肩を痛めた大の里がまさかの休場。これによって豊昇龍は不戦勝で3敗のまま。安青錦が琴櫻を倒せば優勝決定戦にもつれ込むことになった。
そして結果は。みなさんご存知のように琴櫻に勝った安青錦は、勢いのままに豊昇龍も破って初優勝を決めた。
とにかく安青錦の取り口は、いつも変わらない。立ち会いから低く当たって相手の体を起こすように下から入り、足を使って押し込んでいく。決して大柄な力士ではないが(身長182センチ、体重138キロ)スピードとパワーで常に相手を起こし、有利な体勢に持ち込んでしまうのだ。
決定戦を勝った後の土俵下での優勝インタビュー。
NHKのアナウンサーに優勝の要因を聞かれた安青錦は、「下から行く自分の相撲を取ることを考えていました」と答えた。
そしてその夜のNHKのスポーツニュースに出演した安青錦は、ここでも「下から行く自分の相撲だけを考えていました」を強調していた。
そこでアナウンサーが「下からとは、どういうことですか?」とさらに尋ねると安青錦は「それは秘密です」と、笑いながら言った。
そして「引退したら教えます」と「下から」への解説はまったく聞くことができなかった。
ただ簡単にその秘訣を語らなかったことで、先週書いたように彼の立ち会いに強さの秘密があることを私は確信した。
安青錦の仕切りは、レスリングスタイルで他の力士より腰が高いと先週説明したが、股を大きく割っていない分、足がよく動くのだ。
だから走るように足がよく動く。
そしてもう一つ大切なことは、相手にぶつかっていく時の角度である。文章で説明するのは難しいので図で表したいと思う。普通の力士の立ち会いの体勢を矢印で表すと「↗︎」股を割った低い体勢から斜め前方に立ち上がっていくのだ。
一方、安青錦の立ち会いは、最初から腰を高くして構え、上体が一直線に横になって「←」同じ高さで頭から相手に当たっていく。
この矢印をぶつけるとどうなるか?
左が普通の力士で右が安青錦である。「↗︎←」
このベクトルで両者が当たると右の安青錦は頭から相手の胸に突き刺さり、相手は、どんなに強く前に出ても安青錦に下からめくられるように起こされてしまうのだ。これはあくまでも青島の勝手な分析だが、安青錦は自分の口からこの理屈を説明したくないと思っているのだろう。それが「引退するまで言わない」と言っている理由ではないか……。
今場所は、12勝3敗で初優勝。来場所は、大関昇進が間違いない。
そしてウクライナ出身の横綱誕生も時間の問題のような気がしてきた。それくらい安青錦の強さは安定している。そして、その強さの秘密は、やっぱりあの腰高のレスリングスタイルの立ち会いにあるのだ!と思っている。
令和の断面
青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。