令和の断面

vol.286 悔しさをバネに五輪に挑む鍵山優真

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     「キス・アンド・クライ」
     演技を終えた選手が自らの得点を待つエリア。
     選手はそこでコーチと一緒に運命の結果を見届ける。
    
     去年のフィギュアスケート全日本選手権。
     ショートプログラム(SP)の「104.27」は1位通過。
     この日のフリーで優勝が決まる。
     得点が出た。
     「183.68」
     フリーでは2番目の得点だったが、SPとの合計点は1位の「287.95」
     鍵山優真選手(22歳)は、見事優勝を飾り、北京五輪に続いて2大会連続の五輪出場を決めた瞬間だった。
    
     ところがここからが異様な光景だった。
     それは笑顔あふれる嬉しさの涙ではなかった。
     優勝と五輪出場を決めたにもかかわらず、鍵山選手はタオルに顔を埋めて号泣しているのだ。
     悔しくて、悔しくて……。
    
     冒頭の4回転ジャンプは2本成功させたものの、3連続ジャンプの最初に跳んだトリプルアクセル(3回転半)はシングルになり、後半の4回転トウループも転倒して連続ジャンプにならなかった。
    
     涙の理由を鍵山選手は、次のように説明した。
     「優勝にふさわしい演技ができなかった。『まだまだ自分は弱いな』というのがあふれてきてしまった」
    
     18歳で出場した北京五輪では、個人、団体で銀メダルを獲得した。
     高橋大輔、羽生結弦、宇野昌磨らの後を追いかけてきた鍵山。
     次こそは自分がエースになって表彰台の真ん中に立つ。
     その強い思いがあるからこそ、フリーの演技が許せなかった。
     「(強い選手は)大事な局面で臆さない。日本のエース像に自分は到達できていない」
    
     鍵山は、完璧を求める選手なのだろう。
     そうでなければ今季の目標を「完璧主義になりすぎない。練習も試合も楽しむ」と設定しないはずだ。
     高い理想を常に追いかける。
     それゆえに人一倍悩んでしまうのだ。
    
     「次はトップを目指さなきゃ、新しい技も完璧にやらなきゃとか考えて。頭の中がごちゃごちゃなり、自分を見失う部分もあった」と北京後の自分を語っている。
    
     しかし、自分の理想を求めもがきながらも全日本で優勝するところに鍵山の強さがある。
    
     そして鍵山は、そうした葛藤の中で自分なりの答えをつかんだ。
     迷いながらも頼れるのは、自分自身しかいない。
     最後は、自分を信じて滑るしかない。
     「自分の中で自分の正解を見つける」
     それが悩んだ末にたどり着いた答えだった。
    
     2月、いよいよミラノ・コルティナ五輪が始まる。
     鍵山は前を見て言った。
     「今のままでは表彰台もギリギリ。もっと高みを目指したい」
    
     優勝しても、五輪代表を射止めても号泣した鍵山。
     その悔しさが、彼をさらに成長させることだろう。
    
     2026年は、鍵山のチャレンジで幕を開ける。
    
    
    

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