令和の断面

vol.288 天覧相撲の難しさ

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     両国国技館に実際にいたわけではないので、どんな雰囲気だったのかはわからないが、きっとどんどん重苦しい感じになっていったことだろう。
     大相撲初場所8日目。
     この日は、天皇、皇后両陛下、長女愛子さまが6年ぶりに大相撲を観戦された。
    
     取り組みは順調に進み、残すは大関、横綱の4番となった。
     最初に登場したのは、大関・琴桜。
     しかし、小結・王鵬に「押し出し」であっさりと負けてしまう。
     続いて土俵に上がったのは、新大関・安青錦。
     ところが安青錦も関脇・霧島の鋭い攻めを受け「寄り倒し」で敗れてしまう。
    
     テレビは、下位力士の奮闘に拍手を送る天皇陛下、皇后陛下、愛子さまを映し出す。この時点で、後方に控えていた八角理事長の顔が厳しくなった気がした。
    
     しかし、まだまだ波乱は続く。
    
     結び前は、横綱・豊昇龍と東前頭4枚目・大栄翔の一番。
     豊昇龍が立ち合いから一気に攻め込むかと思われたが、大栄翔が上手く左に変わり、豊昇龍は「はたき込み」で土俵に落ちてしまう。
     ここまで上位陣はまったく見せ場なく3人連続で敗れてしまう。
    
     こうなったら、最後は大の里に横綱らしさを見せてもらうしかない。
     ところが対戦相手の伯乃富士は、ここまで3場所連続で金星(横綱に勝利)をあげている横綱キラー。
     それでも伯乃富士は西前頭3枚目の平幕力士。
     そう簡単に横綱が負けるわけがないと思っていたが、結果は2秒余りの相撲で伯乃富士が大の里を一方的に押し出して勝利した。
    
     この時もテレビに八角理事長の顔が映ったが、口を真一文字に結び顔色が無いように感じた。
    
     それもそのはずだ。
     せっかく天皇皇后両陛下と愛子さまが観戦に来られたのに、大関、横綱が総崩れで、その強さを見せることができなかったからだ。
     天覧相撲で大関、横綱がすべて黒星なのは、史上初の出来事だった。
    
     ここで大関、横綱陣のふがいなさを嘆くつもりはない。
     この4番をテレビで観ていて感じたのは、勝負事における心理の不思議だ。
    
     働いた重圧は、やはり皇族がいらっしゃっているということだろう。
     八角理事長の顔色がさえなかったのは、やはり上位陣がしっかりとその強さを見せて欲しいと思っていたからだ。ところがそうはいかなかった。
    
     上位陣には勝ってほしい。勝たなければいけないというプレッシャーが自然とかかっていたのだろう。
     一方の対戦相手は、ここで一番、自分の存在感を出してやろうとチャレンジャーの心持で挑んでくる。
    
     地位を守ろうとする大関、横綱に対して、怖いものなしでぶつかってくる下位力士。そして、大関が二人敗れた時点で、その責任はいよいよ大きくなって横綱が背負うことになる。
    
     相撲界最高の地位にいる力士たちでも、心理的な重圧の中で思うように力が出せなくなってしまうこともある。
    
     その難しさを天覧相撲の4番に見た気がしたのだ。
    
     とにかく大事な場面で強いのは、そして相手にして怖いのは、無心で挑んでくる挑戦者だった。
    
    
    
    

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