これがまさに「杞憂に終わる」ですね。
前回の原稿で「WBCサムライ・ジャパンが心配だ」と書いたのですが、要らぬ心配、とりこし苦労に終わったようです。
チームに勢いをつけるリードオフマン(ヌートバー)の不在。
素晴らしいスラッガーは揃っているが、
足を絡めた細かい野球ができないのでは?
選手任せの馬なりの戦いになるのでは?
という心配から開幕前に「杞憂」と書いたのだが、まったくの的外れ。
でも、これは当たらなくてよかった。
初戦の台湾戦が大事と位置付けたが、そこはまさにその通りだった。
チームに勢いをつけるということであれば、大谷翔平(ドジャース)の満塁ホームランがすべてだが、ここではそこに至る伏線を書いておこう。
このゲーム、もっと言えばこのシリーズ(グループC)の行方を決めたのは、牧秀悟(横浜)と源田壮亮(西武)だろう。
それは満塁で大谷を迎えるその前のシーンである。
まず2回表の日本の攻撃は、6番の村上宗隆(ホワイトソックス)から始まる。
村上が四球を選んでノーアウト1塁。ここで打席に7番牧が入る。
1球目は外のスライダー。これに牧は反応するがボール球なので見逃す。バッテリーは外のボールに牧の意識があるのを感じたのだろう。ランナーを進塁させるためにも外のボールを右方向へ狙うのがこのケースでの定石だ。そこで台湾バッテリーはインコースの強いボールを選択する。詰まらせてダブルプレーを取りにきた。おそらく牧は、このインコース攻めを想定していたのだろう。腕をたたんで詰まりながらも、レフト前にもっていく。これでノーアウト1塁2塁に。
まずは、このバッティングが秀逸だった。
さて、ここからの攻めがさらに難しくなる。
ノーアウト、ランナー1塁2塁でどうするか。
打席は8番源田。
バントのサインが出ても、本人も納得する場面だったと思う。ところがバントのサインは出ない。源田は、普通に1球目から打ちに行く(バントの構えはしなかった)。そこへインコース身体すれすれのボールが来る。
避けようとすれば十分に避けられるボールだった。
ところが源田の軸足は動かない。
「当たりにいった」とは言わない。
しかし、野球をやっていた人ならわかるだろうが、当たっても仕方がないというか、「当たってくれ」とばかりに、足を動かさないのだ。
何度も言うが、当たりにはいっていない。
ちゃんと逃げながらも、当たったらラッキーとばかりに後ろの軸足はそのまま残しておくのだ。
そしてピッチャーの投じたボールがわずかに源田の左足(軸足)をかすめる(リクエストで判明)。
これでノーアウト満塁が出来上がって、大谷へのお膳立てが整うのである。
牧の打撃が技術なら、源田の避け方も技術である。そしてそこには「何をやりたいのか」という明確な意思が働いている。地味ながらもこの二人のプレーがなかったら、大谷の満塁ホームランは生まれていない。
大谷や鈴木誠也(カブス)、吉田正尚(レッドソックス)に豪快なホームランが飛び出して最高の形でアメリカに向かう日本代表だが、その勢いを生んだのは、牧と源田だ。
日本の強さは、彼らがやってのけるようなチームプレーにこそある。
令和の断面
青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。