
■スポーツとポッドキャスト(音声配信)が生み出す新しいファン文化
野球メディアの仕事を長くしていると、情報の届け方ってずいぶん変わってきたな、と感じることがある。かつては新聞、テレビ、そしてウェブ記事。多くの人に広く届けることが、メディアの役割だった。
ただ、ここ数年でもう一つ大きな流れを感じている。それがポッドキャストだ。
私自身、野球専門メディアの中で「Full-Count LAB」というポッドキャスト番組をやっている。よく「なぜ音声なんですか」と聞かれるが、理由は案外シンプルで、野球には“深い話”が多いからだ。
記事では伝えきれない余白。インタビューの空気感。選手や指導者の本音。そういうものは、不思議と声で聞くと伝わってくる。
実際、プロ野球選手が自分でポッドキャストを始めるケースも増えてきた。MLBではエンゼルス・菊池雄星投手やカブス・今永昇太投手が個人で発信をしはじめた。日本でも阪神の近本光司選手が音声メディアに取り組んでいる。千葉ロッテマリーンズのように、球団が番組を作る例も出てきた。
これにも理由がある。ポッドキャストは、ファンとの距離が近いメディアだからだ。試合後のコメントや記者会見では見えない選手の人柄。プレーの裏にある考え方。チームの空気。そうしたものが、会話の中で自然と伝わってくる。
もう一つ、面白い特徴がある。ポッドキャストは「聞こうと思った人」が聞くメディアだということだ。ニュースはどうしても広く浅く届く。一方でポッドキャストは、本当に興味のある人が自分から取りに来る。
だから、少し深い話もできる。私が運営するポッドキャスト番組でのことだ。
元オリックス、ヤクルトの近藤一樹さんをお招きしたポッドキャスト番組ではこのようなことを言っていました。2006年の肩の負傷で引退を覚悟した際、「視点の転換」でその先がつながった。怪我を隠して投げ続け、ボロボロになった自分を球団が契約更新してくれたことで、「投げられない苦しさ」に比べれば「マウンドで打たれること」さえも幸せであり、自らの実績なのだと捉え直せるようになったと言います。この究極のポジティブ思考が、その後の10勝という復活劇を支えたという深い話でした。
ベテラン・石川雅規投手のマウンドの「足跡(あしあと)」に感動したという話は、ポッドキャストならではでした。対戦相手としてマウンドに上がった際、自分より小柄な石川投手の踏み込みが、183cmある自分と同じくらい深いことに気づき、「だからバッターの近くで放れるんだ」とその凄みを肌で感じたといいます 。こうした、試合後の取材や会見ではこぼれ落ちてしまう選手の生々しい感情や、マウンドの土に残された職人同士の対話に触れられることこそが、ポッドキャストというメディアが持つ最大の魅力です。
アメリカではポッドキャストはすでに大きな文化になっている。政治の議論を動かすほど影響力を持つ番組もある。日本でも、これから“聞く文化”は広がっていくかもしれない。
通勤の電車の中でもいい。洗濯物をたたみながらでもいい。スマートフォンとイヤホンがあれば、どこでも野球の話が聞ける。試合を見るだけではない。記事を読むだけでもない。野球を「聞いて楽しむ」。そんな文化が、これから少しずつ広がっていくのかもしれない。
野球を深掘り…Full-Count LAB―探求のカケラー
https://creators.spotify.com/pod/profile/podcast-full-count/episodes/Vol-zero-Full-Count-LAB-e35b1a6
楢崎 豊(NARASAKI YUTAKA)