【令和の断面】vol.1「人類初の8重跳びに挑む」

令和の断面


「人類初の8重跳びに挑む」

新年早々の日本経済新聞にこんな記事が載っていた。なわとびの多重跳びでギネス記録に挑戦する人の手記だ。

現在のギネス記録は「7重跳び」で「8重跳び」に挑戦しているというのだ。勤めていた繊維メーカーを辞めて、なわとびプレーヤー「もりぞー」として記録更新を狙うのは森口明利氏。実は、「7重跳び」のギネス記録(2017年に認定)も彼が持っている。

京都大学でなわとびサークルに入った森口氏は、ダブルダッチでなわとびの技を磨き、大学院に進んでから多重跳びに取り組みだした。2018年1月放送のNHK「超絶 凄ワザ!」という番組で「8重跳び」に挑戦したが、この時には失敗し、以来「8重跳び」へのチャレンジを続けている。

記事によれば、ギネス記録更新の可能性は十分にありそうだ。

計算上は、「8重跳び」には「0.815秒」の滞空時間が必要になる。森口氏が「7重跳び」を成功させた時の滞空時間は「0.78秒」。このままではいつになっても「8重跳び」は達成されない。そこで彼は、専門のサポートチームと組んで「ジャンプ力の向上」「なわとびを回転させる腕力のアップ」「ロープの材質開発」に取り組むことになる。またなわとびのグリップも3D技術を活かして最適な形状を目指している。

こうした努力の甲斐もあって、現在の滞空時間の自己ベストは「0.818秒」まで伸ばしている。ロープの回転数も1回あたり「0.1135秒」と「8重跳び」に必要な「0.135秒」をクリアしている。ロープの材質も一般的なステンレスを使わず、弾性と剛性に優れたタングステンのものを使用。タングステンのロープは、細さと適度な重さを両立させることができるそうだ。

こうなると、「8重跳び」のギネス記録達成は、もはや彼のコンディション次第といったレベルまできているようだ。ちなみに人類は、理論上「9重跳び」まで可能だと記事は締めくくっている。

令和2年の正月から、なわとび推しの原稿を書こうとしているわけではない。もちろん人類初の「8重跳び」の達成を期待しているが、この記事を読んだ私は、「実に令和なニュースだな」と感じたからだ。

1990年代からスポーツの取材者となった私は、野球やサッカー、ゴルフやテニス、アメリカの4大スポーツ等々、幸いなことに世界のメジャースポーツを中心に仕事をしてきた。それが2000年代になった今日、見るスポーツもやるスポーツも目を見張るほど多様になって、さまざまなスポーツを多くの人が楽しむようになってきた。

今夏の東京オリンピックでもスポーツクライミングやスケートボード、サーフィンや3×3(スリーバイスリー)のバスケットなど、新競技が目白押しだ。また、e-スポーツの躍進も世界的な広がりを見せている。始まった令和の時代は、多様性の時代といえるだろう。そしてもうひとつあげるとすればサイエンスとテクノロジーの時代ともいえる。

アメリカでは野球の審判(ストライク、ボールの判定)を機械(ロボット)に任す運用実験がもう始まっている。今シーズンからはマイナーリーグで導入され、近々メジャーリーグでもロボット審判が現れると言われている。あらゆるスポーツがテクノロジーで変わっていく。こうした変化にアスリートたちは、どう挑んでいくのか。そしてスポーツには、変わっていくものと変わってはいけないものがあるはずだ。その真の価値を忘れてはいけない。

令和の断面を切り取ってこの時代とスポーツを考えることが面白くなりそうだ。

そう言っては怒られてしまうが、なわとびの記事が経済紙に載る時代なのだ。
森口さん、ごめんなさい(笑)。

まさにスポーツの多様性を見る、新時代の到来である。

青島 健太 Aoshima Kenta

昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

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