【令和の断面】vol.20「待ちに待ったナショナルトレセンの再開」

令和の断面


「待ちに待ったナショナルトレセンの再開」

 非常事態宣言の解除を受けて、スポーツが少しずつ動き始めた。
 6月19日に開幕を決定したプロ野球については前号で触れたが、中断していたJリーグも再開を決めた。J2が6月27日、J1が7月4日に再スタートする。
 こうした動きが、閉塞感に包まれた社会の空気を、徐々に換えてくれることだろう。

 こんな動きもある。
 4月から新型コロナウイルスの影響で使用停止になっていた味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都北区)が、非常事態宣言の解除を受けて、6月1日から選手たちの利用が再開された。

 待ちわびた選手たちが、早速、ナショナルトレセンに集まってきた。

 競泳男子で東京オリンピックの金メダルを狙う瀬戸大也選手。
 非常事態宣言中は、ナショナルトレセンだけでなく、公営のプールも、民間のプールも泳ぐことができなかった。それでも自宅に仮設プールを設置して、泳ぎの感覚だけは維持してきたというが、やっぱり本格的なプールで泳がなければその不安が解消されることはなかっただろう。
 それだけに瀬戸選手もこの再開を喜んでいるようだ。
 所属事務所を通じて、次のようなコメントを出している。

 「これまで毎日のように泳いできたプールなのでとても泳ぎやすかった。まだ段階を踏んで、ではありますが、来年に向けてスタートしていきます」

 ただ、同行した瀬戸選手のコーチは、感染予防策(入場制限)により入館できなかったようだ。

 男子体操の内村航平選手も拠点にしてきたナショナルトレセンに帰ってきた。
 個人総合でオリンピック連覇を成し遂げている内村選手も、2か月間、同所での練習ができなかった。
 この日は、3時間ほど汗を流したという。
 若手が台頭する体操界で内村選手も東京オリンピックに向けては、厳しい状況に置かれている。今後は、9月に予定されている全日本シニア選手権(高崎アリーナ)を目指して調整を続けていく。

 こうした練習施設の開放は、単にトレーニングができる便利さが戻ってきただけではない。ナショナルトレーニングセンターには、代表選手たちの、あるいはその候補選手たちの熱い思いが詰まっている。競技を問わず、いろいろ選手たちが良い意味でお互いを刺激し合って、それぞれのモチベーションを高めていく。
 ナショナルトレセンには、間違いなくそうした機能がある。
 これからさまざまな競技の選手たち、関係者がここに集って、東京オリンピックに挑むコンデションと覚悟を作っていくことだろう。

 働き方が変わって、テレワークでの仕事が一般化し始めている私たちの社会。
 コロナウイルス禍の中にあっては、極めて有効な対策だ。
 ただ、私たちにとってのナショナルトレセンもあるはずだ。
 久しぶりに職場に行ったり、本社に顔を出したりすることで、高まる意欲もあるだろう。

 油断は禁物だが、流動性が高まってきた社会活動で、効果的に動く、意識的に移動する、職場で仕事をする、そうしたことで図られる気分転換や新しいライフスタイルの発見も大事なことだろう。

 コロナウイルスと上手に向き合って、少しずつ前に進もう。
 スポーツの選手たちも、喜びの中で動き出している。

青島 健太 Aoshima Kenta

昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

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