「かつては「人気のセ、実力のパ」と言われたが…」
「人気のセ、実力のパ」
往年のプロ野球ファンなら、こう言われていた時期を覚えていることだろう。
今のように交流戦がなかったので、セ・リーグとパ・リーグが対戦するのは、オールスターゲームと日本シリーズに限られていたが、オールスターゲームの時には、よく言われたフレーズだ。
しかし、それが言葉通りの違いだったのかと言えば、決してそうではなかった気がする。巨人を中心に、いや巨人がいることで人気を誇ったセ・リーグに対して、パ・リーグの人気のなさは悲惨だった。同じプロ野球でありながら、どうしてこうも観客動員に差が出てしまうのか。「実力のパ」という形容には、人気のなさに配慮してパ・リーグを持ち上げた表現だった気がする。
(あくまでも個人的な印象ですが…)
さて、昨今はすっかり使われなくなった前述のフレーズだが、今、もし誰かがこれを言い出しても多くのファンが違和感なく受け入れてしまうかもしれない。
「ちょっと待った」と異議を唱える人がいるとしたら、「人気だってパ・リーグは負けていない」と言い出すことだろう。
交流戦でパ・リーグが勝ち続けている事実。
そしてその勢いは、日本シリーズにおいても同じ結果が出ている。
交流戦の通算成績(2020年は中止)は、パ・リーグの12回優勝(1098勝で14回勝ち越し)に対して、セ・リーグは3回優勝(966勝で1回勝ち越し)とパ・リーグがセ・リーグを圧倒している。
日本シリーズも、ここ10年(2010年以降)の成績を見ると2012年に原辰徳監督率いる巨人が勝っているだけで、あとはパ・リーグが9回優勝している。しかも17年、18年、19年とソフトバンクが3連覇中だ。
人気をセ・リーグに譲ったとしても、「実力のパ」は、もはや疑いようのない事実だ。
どうしてこんなことになってしまったのか?
そこにはいくつかの要因があると思われるが、やはり一番大きな違いを考えるなら、「DH制」の導入を挙げざるを得ないだろう。
今回の日本シリーズを見る限りでも、投打のパワーでソフトバンクが巨人を圧倒している(第2戦を終えてソフトバンクの2勝。この原稿は24日火曜日に書いています)。
DH枠があれば、ここを任せる強打者を数名補強することになる。DHで若手や伸び盛りの選手を使うにしても熾烈な競争が始まる。中途半端な打撃をしていたら生き残れない。他の選手も影響を受けてフルスイングを心掛けることになるだろう。日本シリーズ第2戦でソフトバンク9番の甲斐拓也が特大のホームランを叩き込んだのは、パ・リーグの野球を象徴するシーンだった気がする。
8人の打者(投手を除き)に投げるセ・リーグと9人の打者をつねに相手にするパ・リーグでは、やはりパ・リーグの投手の方が厳しい環境に置かれていると言えるだろう。その分、パ・リーグの投手は、パワー(球速と球威)で勝負しなければならない。
戦術的な違いや選手の起用法など、述べるべきポイントは他にもあるが、ひと言で言ってしまえば「DH制」の方が、打者も投手もパワーで戦う場面が多くなるということだろう。その差が、セとパの対戦になると、パ・リーグに有利に働く。
今のプロ野球を正確に言うなら、きっとこうなるだろう。
「かろうじて人気のセ、実力のパ」
この原稿がアップされるのは26日(木曜日)だ。
ソフトバンクが4連勝すると、日本シリーズは水曜日に終わっている。
出来れば、巨人が盛り返して、この原稿の内容(実力のパ)を覆して欲しいのだが…。
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。