【令和の断面】vol.56「畳に布団で投げた番長」

令和の断面


「畳に布団で投げた番長」

 日刊スポーツ(2月23日)に載ったちょっとした記事に目を奪われた。
 横浜DeNAベイスターズの三浦大輔新監督(47歳)にまつわる話だ。
 その見出しは、「初めてのベッド…現役時代は畳でした」だった。
 「なにそれ?」と思って本文を読むと、こんな内容だった。

 1軍の監督として初のキャンプイン。現役時代は、部屋に畳を持ち込んで布団を敷いて寝ていた。寝心地だけでなく、朝や寝る前にストレッチするのに便利だったから。
 ところが監督となって臨むキャンプでは、初めて部屋のベッドで寝た。現役時代とは、宿舎での過ごし方も変わった!というのだ。

 部屋に畳を持ち込んで布団で寝る…

 「ハマの番長」こと三浦監督に「昭和の男」を感じると共に、時代の流れを思わずにはいられなかった。
 
 今の若い選手にとって、自分の部屋に畳を持ち込むことなど考えられないだろう。
 62歳の筆者だが、私が現役(元ヤクルト・スワローズ)の頃は、そうしたことは普通に行われていた。特に各チームの主力選手には、自分のスタイルにこだわりを持った人が多かった。自宅でベッドの人は問題ないが、普段から畳に布団を敷いて寝ている人は、その環境が変わらないように旅先(キャンプ)でも布団で寝ていた。布団に慣れている人たちは、ベッドは柔らかくて腰を痛めると言っていた。

 今は、ベッドもさまざまな開発が進み、枕を含め科学的に睡眠が研究されている。
 野球と言わずあらゆるアスリートが、布団よりもベッドを好んでいるのではないだろうか。

 もうひとつ番長の「畳に布団」で考えさせられたのは、横浜一筋、25年間も現役で投げ続けてきた投手の自己管理の徹底ぶりだ。リーゼントの髪形も不変だったが、注目すべきはむしろこうしたコンディショニングの継続だろう。ベッドか?布団か?の効用の是非はともかく、良いコンディションで投げ続けるために、日常をしっかりと管理するその姿勢が、長く彼を頑張らせたのだ。

 話は尾籠なことになるが、我々が子どもの頃は、まだまだ和式のトイレが全盛だった。今の選手たちはしゃがんで用を済ます和式のトイレと言ってもピンとこないだろう。
 私がスポーツライターとして初めて書いたコラムも「プロ野球選手を目指す子どもたちよ、和式トイレを使え」というものだった。「トイレでしゃがみこみことで、内野手に必要な股関節の柔軟性を養える」という主旨の内容だったが、今ではまったく時代錯誤な指摘になってしまった(笑)。

 令和のプロ野球選手の必需品は、スマートフォンやiPadやパソコンだ。
 選手たちはグラウンドやブルペンで、気軽にスマホでフォームを撮影することができる。対戦相手の情報もiPadやパソコンで見る。映像で自分を客観視することは、長所を伸ばし短所を矯正することにつながる。今の選手たちは、IT機器を駆使しながら上手くなろうとしているのだ。

 布団や和式トイレは、もう昭和を懐かしむアイテムになってしまったようだ。
 今は番長も、部屋でiPadの映像(矢沢永吉やプロレスやボクシング)を楽しんでいるらしい。
 思えば「番長」も、近頃はほとんど使われない言葉だ(笑)。

青島 健太 Aoshima Kenta

昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

バックナンバーはこちら >>

関連記事