【令和の断面】vol.63「泣いてしまった小笠原アナに感謝、松山のすごさがより際立った」

令和の断面


「泣いてしまった小笠原アナに感謝、松山のすごさがより際立った」

 「小笠原、泣くなよ!」と、思わずテレビを見ていて突っ込んでしまったが、その嗚咽交じりの沈黙に、当方もつられて涙腺がゆるくなってしまった。

 ゴルフのメジャー大会、マスターズ最終日(日本時間12日早朝)。
 松山英樹選手(29歳 LEXUS)が18番でウイニングパットを沈めて優勝を決めると、テレビ中継のTBS小笠原亘アナウンサーは、
 「…10年の道のりは決して平たんではありませんでした」
と言った後、こみ上げる涙で実況ができなってしまった。

 時折聞こえる嗚咽。
 そこには小笠原アナウンサーだけでなく、解説の中嶋常幸プロと宮里優作プロの涙も混ざっていた。

 続いた沈黙は、およそ1分。
 いや沈黙ではない。
 放送席の面々が、泣いているのがよくわかる中継だった。

 小笠原アナウンサーを、当方は「ジローラモ」と呼んでいる。
 イタリア人タレントのパンツェッタ・ジローラモさんによく似ているからだ。
 いや、厳密に言うと、似ているのは顔の造作ではなく、濃いめの雰囲気というところだ。小笠原アナウンサーとは、これまで野球中継やスポーツ番組などで長らくご一緒してきた。自身も柔道やスキーで活躍してきた人だから、そう簡単に泣くような男ではない。スポーツの感動やドラマ性には慣れているからだ。
 
 そのジローラモが、泣いていたので当方もつられてしまった。
 あの場面で泣いていなかったのは、優勝を決めた松山選手だけだった(笑)。

 冒頭の小笠原アナウンサーのやっと絞り出したコメントでもわかるように、彼は松山選手がアマチュアでマスターズに出場した2011年(ローアマチュア)から取材を続けてきた。その歩みを誰よりも知るだけに「決して平たんな道のりではありませんでした」と言って、そのまま話せなくなってしまったのだ。

 実況のアナウンサーや解説者まで泣かせてしまった松山の快挙だが、テレビを見ていて強く印象に残ったのは、プレー後の優勝インタビューなどで松山がびっくりするほど寡黙だったことだ。もともとシャイで言葉数の少ない人なのはわかるが、優勝を決めてもはしゃぐようなところがまったくなかった。感情がことごとくコントロールされている感じがしたのだ。

 そして、確信した。
 歴史的な優勝を支えたのは、間違いなく感情を抑えたこのメンタルがあればこそのことなのだと…。

 その心は、優勝が決まっても解けない!!!
 ナイスショットを打っても慢心したり油断したりしない。
 ミスショットが出ても、その失敗にくじけない。
 常に冷静にやるべきことだけを見つめる。
 外部のことに揺らがない「閉じた心」とでも言おうか。
 どんなことがあっても、その感情を閉じ込めて、身体に浸み込んだ技術を頼りに必要なショットを繰り出していく。

 プレー中の松山には、その心のマネジメントを随所で感じたが、優勝後のインタビューでも解けない心を見た時に、それがいかに深く冷静にコントロールされていたのかを感じたのだ。

 それは感極まって泣いてしまったジローラモがいたからこそ、その対比の中で感じることができた松山のすごさで、涙の実況に感動した人たちとは違う観点で、放送席の嗚咽に共感した。

 ゴルフは、まさに自分と向き合って心をマネジメントする競技だ。

青島 健太 Aoshima Kenta

昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

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