【令和の断面】vol.66「8番投手を敢行したラミちゃんの根拠」

令和の断面


「8番投手を敢行したラミちゃんの根拠」

  「8番投手」
 横浜DeNAベイスターズ、前監督のアレックス・ラミレスさんが得意にしていた打順だ。
 ピッチャーを8番で起用する。
 野球評論家の間では、「不評」の意見の方が多かった印象を受けるが、その狙いについてご本人が日本経済新聞(5月11日付け)のコラムで詳記している。

 きっかけはジョー・ウィーランド投手の野手並みの打撃をどうやって活かすかというところから始まったようだ。
 そこで彼を8番で起用すると、他の投手でも8番で打線を組むことに合理性を見つけたというのだ。

 一般的な打順は投手を9番に置くことが多い。その前の8番は、チーム事情にもよるが捕手など、比較的走力のない選手が起用される。この場合、8番が出塁すると9番の投手で送りバントをすることになるのだが、8番の足が遅いとバントでも併殺の可能性が高くなる。
 そこで思い付いたのが、「8番投手」という打順だというのだ。

 まずは7番に出塁率が高く俊足の選手を置く。そして8番の投手をはさみ9番に勝負強い選手を配置する。こうするとバントでのダブルプレーの危険性は減る。
 また2死から7番が出塁した時には、打者が投手だけに盗塁への警戒が薄れ、走りやすくなるというのだ。

 この考え方が見事に機能したのは、2017年の7番梶谷隆幸(現・巨人)、8番投手、9番倉本寿彦の時だったとラミレスさんは回想する。
 この年、横浜DeNAは得点力が向上し、日本シリーズまで進出している。

 8番投手以外にも、ラミレスさんは「2番筒香嘉智(現・レイズ)」が象徴するように、データに基づいた独自の選手起用を積極的に推進した。

 我々は、そうした采配の理由となる基礎データを知らなかったので、多くの場合突飛な選手起用に映ることが多かったが、ラミレスさんはデータを根拠に日本野球界の常識に縛られることなく、大胆な作戦でチャレンジし続けたのだ。

 一般論で言えば、投手の打撃は野手に比べて見劣りする。また投げることに専念させるためには打席が多く回ってこない方が良い。そこを考えれば、9番に投手を置くことに合理性があり、長い間、それが野球界の常識になってきた。

 ただ、どういう場面で投手に打席が回るのかは、ゲームが始まってみなければ分からない。「8番投手」がハマることもあれば、アダになることもある。
 「8番投手」が機能するかどうかは、やはりチーム事情(前後の打者の組み合わせ)によるだろうが、チーム内外に「常識に縛られない野球をやろう!」という考え方をメッセージする効果は十分にあったと思う。

 メジャーリーグでは、データに基づいた極端な守備のシフトが当たり前になっている。エンゼルスの大谷翔平が打席に立つと、1,2塁間に3人の内野手が守っている。
 もはや定位置の概念は薄れ、打者によって流動的に守る。
 3塁手がセカンドベースを踏んでダブルプレーをしたりするのは朝飯前だ。
 これまでの打球方向を参考に、投手の特徴と打者のタイプをAIに分析させれば(もう始まっているか?)さらに極端な守備シフトが生まれる可能性もある。

 固定観念に縛られない。
 保守的な習慣に流されない。
 データや数字を参考に、置かれた状況を客観的に判断する。
 大切なことは、どんなことでも自分で考えて行動する。
 ラミレスさんが目指したことが、そうしたことならば、これは野球に限らず私たちの日常にも、援用すべき姿勢といえるだろう。

青島 健太 Aoshima Kenta

昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

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