【令和の断面】vol.67「令和の怪物 佐々木朗希は美しい」

令和の断面


「令和の怪物 佐々木朗希は美しい」

 「令和の怪物」が、ついにベールを脱いだ。
 千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手(19歳)が、5月16日の埼玉西武ライオンズ戦にプロ初登板初先発、5回4失点(勝ち負けつかず)でデビュー登板を果たした。

 そのフォームは美しかった。
 大船渡高校時代よりは、投球時に上げる左足が下がったものの、それでも顎の高さほどに上がった左足が躍動を予感させる。そして、踏み出した左足とは逆に後ろに残った右腕が、この後、しなるように振られる。大きなフォームながら、力んだ感じがまったくない。むしろ脱力さえ感じる静かな動きで、流れるようにボールを投げる。美しく優雅な投球フォームだ。

 初回からピンチを招いたが、慌てることはなかった。
 先頭の若林と3番森にヒットを許したが、4番山川を三振、5番栗山をレフトフライに打ち取って、1回を0点で切り抜けた。
 この立ち上がりで、自身のペースを作った。

 3回に2番源田の2点タイムリーヒット、その後の犠飛で合計3点を献上したが、たとえ失点しても淡々と投げ続ける姿にピッチャーらしい佇まいを見た。

 そう、佐々木の投球には、そのフォームを含め表現しがたい「品」があるのだ。
 がむしゃらに力に頼るのではなく、無駄のない合理的なフォームから繰り出される150キロ台の直球が、まだまだ余力を残してキャッチャーミットに収まっていく。
 高校時代にマークした163キロは、彼の代名詞になっているが、その球速への期待に応えようとしていないところが、素晴らしい。

 力の出し惜しみを称賛しているわけではない。
 ピッチャーの役割の何たるかが分かっているということだ。

 この日の最速は154キロ。
 全107球のうち71球がストレート。そのほとんどが150キロオーバーの球速だった。そしてそのボールを、打者の内外にコントロールして投げることができる。
 与四球2個という制球力が今後への期待材料だ。

 高校野球史上最速の163キロ、「令和の怪物」と呼ばれた男が、怪物らしさを封印することで、投手としての才能をより見せつけた初登板だった。

 投手の仕事は、速い球を投げることではない。
 チームに勝利をもたらすことだ。
 その意味で、この日許した5盗塁も大きな課題といえるだろう(おそらく西武は、もうすでに何らかのクセか傾向をつかんでいるにちがいない)。

 とは言え、佐々木の美しいフォームに「サステナビリティー」を感じた。
 本来、投球フォームに使う表現ではないことは承知しているが、彼の流れるような美しいフォームを見た時に、その言葉が浮かんだ。

 「持続可能性」

 どこまでも同じようなフォームで質の高いボールを投げ続けることができる。

 「令和の怪物」は、美しく静かに投げる。
 自分の考えや狙いを投球で表現できる。
 表現力と再現性の高い投手だ。
 これからコンスタントに勝ち続けることになるだろう。

青島 健太 Aoshima Kenta

昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

バックナンバーはこちら >>

関連記事