【令和の断面】vol.87「『勝』と『西郷』勝ったのはどっち?」

令和の断面


「『勝』と『西郷』勝ったのはどっち?」
 雨で1日順延。
 月曜日(4日)に最終ラウンドが行われた国内女子ゴルフのメジャー大会、日本女子オープン(栃木県烏山城CC)をテレビで観戦した。
 3日目を終えて勝みなみ(23歳、明治安田生命)が9アンダーで単独首位。1打差の8アンダーで西郷真央(19歳)が追いかけ、7アンダーに西村優菜(21歳)、5アンダーに金田久美子と上田桃子、4アンダーに渋野日向子がいる大混戦で最終日を迎えた。

 勝さんには、会ったことがあるが身長157センチとそれほど大きな選手ではない。
 しかし、今シーズンは体力強化に努め、ドライバーの飛距離が大幅にアップした。
 ドライバーの平均飛距離(250ヤード越え)も原英莉花に次ぐ2位を誇っている。その成果と言ってもいいのだろうが、飛距離に余裕が出たぶん、アイアンの安定感も増し、グリーン周りやパターにも一層の冴えを見せている。
 この日まで3日間とも60台(68、67、69)で回り、3日目には5番(イーグル)と18番(バーディー)でチップインを2発決めている。
 アマチュア時代(17歳)、この大会でローアマチュア(15年)に輝いている勝だが、まだメジャータイトルは取っていない。いよいよその時が来るのか…と最終組で一緒に回った西郷とのプレーに注目した。

 話は逸れるが、鹿児島出身の勝と関東出身の西郷の対決。
 何か、気が付きませんか(笑)?
 ふたりの名前は幕末の両雄のそれだが、出身地が逆になっている。それでも西郷の猛攻を受けて、勝がタイトルを無血開城するのかどうか?なんて思って見ていたら、最後までふたりのバトルから目が離せなかった。

 この日も勝の安定感が抜群だった。
 1番(3m)、2番(4m)と嫌な距離のパーパットを残したが、これを難なく決めて流れに乗った。その後は、手が付けられないバーディーラッシュ。終わってみれば2位タイの西郷に6打差の14アンダー。史実とは逆に勝が追い迫る西郷を一蹴して初優勝を飾った。

 優勝インタビューで勝は言った。

 「どうしてもこの大会に勝ちたいと思っていたので本当にうれしいです」
海外でのプレーを志向している勝にとって、優勝で得られる国内ツアーの3年シード権をなんとしても欲しかったのだ。
 むしろ、この大会でなかなか勝てなかったのは、その意識(シード権を獲得したい)が強すぎたのかもしれない。

 インタビューでは、次のひと言が印象に残った。

 「いままでの経験から言って、最終日最終組でプレーするとなかなか思うようにスコアを伸ばせない。だから今日は粘り強くプレーすることだけを心掛けました」

 スポーツにおける経験とは、こうしたことを言うのだろう。何事も自分本位に進まない。求められるのは、我慢。最後まで落ち着いて粘り強くプレーする。調子の良さや勢いだけでは勝てないのだ。

 勝の話を聞いて、すぐに思い浮かんだのは、終盤戦の大谷翔平だ。ピッチャーでは10勝目を目指し、バッターではホームラン王に期待がかかった。しかし、好投むなしく打線の援護がなかった大谷は、10勝目を飾ることはできなかった。また大谷のホームランを警戒した相手チームが、露骨に大谷を敬遠したのは周知の通りだ。結局、メジャー新の20敬遠を記録する。
 大谷の終盤戦と「いままでの経験から言って、最終日最終組でプレーするとなかなか思うようにスコアを伸ばせない」という勝の言葉が重なった。

 それでも苛立ちを抑え、最終戦で46号ホームラン(3位)を放った大谷は、同時に100打点も達成し球史に名を残す偉業の数々を締めくくった。
 調子のよい時ほど、冷静に粘り強く戦う。
 勝の経験は、どんな人にも生かせる教訓だろう。

青島 健太 Aoshima Kenta

昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

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