【令和の断面】vol.93「高津監督の魔法の言葉」

令和の断面


「高津監督の魔法の言葉」
 日本シリーズに臨む東京ヤクルトスワローズ、高津臣吾監督のある「言葉」が注目を集めている。

 「絶対 大丈夫」

 これは、ペナントレース終盤、阪神と首位争いを演じながらなかなか勢いに乗れないチーム状況の中で、高津監督がミーティングで発した言葉だった。
 9月7日の阪神戦(甲子園)の試合前。
 高津監督が選手たちに向かって言った。
 「絶対に大丈夫だから。チームスワローズが一枚岩でいったら、絶対に崩れることはない」
 その日の試合にも勝ち、この後チームはまるで魔法にかかったかのように快進撃を続ける。
 9月14日の阪神戦(神宮)から28日のDeNA戦(神宮)まで13試合連続負けなしの球団新記録を樹立し、一気に首位に躍り出た。

 そして、この言葉は今季最終戦(11月1日)の神宮球場で、ファンに向かってもう一度叫ばれた。

 「まだまだCS(クライマックスシリーズ)、そしてその先には日本シリーズがありますが、チーム、選手、スタッフはもちろん、ファンの皆さまと絶対崩れない一枚岩となって勝ち抜いていきたいと思います。選手は頑張ってくれるはずです。絶対大丈夫です」

 以来、「絶対 大丈夫」は、CSを戦うヤクルトのスローガンのような言葉となってチームに魔法をかけ続けている。
 選手たちによれば、この言葉を合言葉のようにグラウンドや打席の中で唱えているという。
 キャプテンの山田哲人は、ピンチのマウンドでピッチャーとこの言葉を確認し合い、主砲の村上宗隆も、「絶対 大丈夫」と2,3回言ってから打席に立っているそうだ。
 今では「絶対 大丈夫」とプリントされたタオルやTシャツも売り出され、この言葉を通じてファンとチームの一体感も生み出されている。

 高津監督の言葉は、これだけではない。
 マジック「4」から連敗が続いた時、ロッカールームに1枚の紙が張り出されていた。そこにはひと言、達筆でこう書かれていた。

 「腹くくって いったれぃ!」

 選手たちは、それが誰の筆跡かすぐに分かった。

 こうした言葉に込めた選手への思い、チームへのメッセージ。
 高津監督はその真意を次のように説明している。

 「自分を信じて、チームメートを信じて、このチームが一つになって戦っていこうじゃないかと。それしかできないので、本当に信頼して、腹をくくって送り出しているつもりです」

 「しっかり自信を持って、胸を張って、勝っても負けても堂々と勝負していきたい」

 味方のリードを背負い、たった一人で9回のマウンドに上がっていくクローザー(抑え投手)。その修羅場を何度も潜り抜けてきた高津監督だけに、これは現役時代から自らに言い聞かせていた言葉なのかもしれない。
 「絶対 大丈夫」は、自分を信じる言葉であり、指揮官が選手を信じる言葉でもある。大事な場面で物を言うのは、つまるところメンタルだ。

 ヤクルトにかかった魔法が、日本シリーズでも通用するのかどうか。
 楽しみな頂上決戦がいよいよ幕を開ける。

青島 健太 Aoshima Kenta

昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

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