【令和の断面】vol.106「ビッグボスの高度な戦術」

令和の断面


「ビッグボスの高度な戦術」

 久しぶりに「ビッグボス」について書こう。
 北京五輪があったので、キャンプインしたプロ野球の話題も控えめな報道になっていたが、それでも「注目を集める」という点でひとり気を吐いていたのが新庄剛志監督率いる北海道日本ハムファイターズだろう。

 キャンプ終盤(2月24日)には、スポーツ庁の室伏広治長官が沖縄県名護市のキャンプ地まで駆け付けて、ハンマー投げ金メダリストのトレーニングメソッドを伝授した。室伏長官には「6624(むろふし)」の背番号が付いたユニフォームが用意され、午前中の全体練習と午後の個別練習で瞬発力をアップするトレーニング方法と身体の使い方を学んだ。
 室伏長官は、ビッグボスからの依頼をこう語っている。

 「新庄監督は、『大きな身体を動かすにはどうしたらいいか?』というテーマを望んでいた。スポーツ界が盛り上がればいい、とオファーを受けさせてもらった」

 そしてビッグボスも
「バッティングを見たら選手が変わった感じがしましたね。爆発力というか」
と、その成果をすぐさま実感したようだ。

 新庄監督がキャンプ中に臨時コーチを招いたのは、室伏氏で7人目。十種競技のエキスパート武井壮氏に始まって、ファイターズのOBに限らず球界のレジェンドやスペシャリストを次々に招へいし、その度にメディアに格好な話題を提供してきた。

 その狙いは周到であり、見事としか言いようがない。
 室伏長官のレッスンにしても、そんなに早く効果が現れるとも思えないが(笑)、監督が「変わった感じがする!」と言えば、メディアもそうした視線で選手の一挙手一投足を眺めることになる。
 そしてオープン戦でホームランでも出れば、それはそれで「レッスンへの満額回答」となって日本ハムの報道量はアップすることになる。

 最初からビッグボスは、そうしたメディアの特性を熟知しているのだ。

 そればかりではない。
 ゲストを招いてサプライズでニュースを作る一方で、陰に隠れることで誰よりも目立つことを仕掛けたりしてくる。

 これは以前から計画されていたことだが、2月26日のオープン戦初戦(対横浜DeNA)ではベンチに入らないどころか、試合前に宿舎に引き上げてしまい、球場を望むホテルのバルコニーから観戦した。
 監督には、チームリーダーの上沢直之投手を指名し、先発メンバーもすべて彼に決めさせた。
 この狙いも、「選手たちにいろいろなことを考えさせる」というところにあり、監督の不在に、選手たちもより自主性を発揮することになっただろう。

 以前にも書いたが、一見ちゃらんぽらんにやっていそうでビッグボスの言動は、すべて計算ずくで行われている。

 チームを強くするのは、選手の技術を集めたチーム力だけではない。メディアに注目されて、ファンに支持されることで高まる選手たちのモチベーションや集中力も大事だ。それをよく知るビッグボスは、つねに話題を提供し続けてメディアの報道さえも戦力化しようとしているのだ。

 バルコニーでの観戦が終わると、ちゃんとグラウンドに戻ってきたビッグボス。
 この日の作戦も見事に成功。
 ここまでは良い意味で、ビッグボスの高度な戦術にスポーツメディアは完全に巻き込まれている(笑)。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
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