【令和の断面】vol.107「村岡選手が見せたメークの力」

令和の断面


「村岡選手が見せたメークの力」

 日本経済新聞(3月7日付け)の社会面に踊った見出しに、何だかホッとする気持ちを覚えた。それは、北京パラリンピックで活躍する村岡桃佳選手に関する記事だった。

 【メークで絆 重圧和らぐ】

 そのすぐ下には「村岡選手、2個目の金」という見出しも。

 5日の滑降(座位)で金メダルを獲得した村岡選手は、翌6日行われたスーパー大回転(座位)でも金メダルに輝き、2日連続で栄冠を手にした。
 記事は、その活躍を称える内容だったが、日本代表の重圧をはねのける要因となったのが「メーク」だと紹介していた。

 記事によれば、村岡選手は同じ埼玉県出身の本堂杏実選手(同立位で8位)と仲がいい。そのきっかけとなったのが、本堂選手が着けていたサンリオキャラクターのピアスだったと言う。村岡選手も同様のキャラクターが好きで、声を掛けたのがふたりの仲の始まりだった。ともにメークやおしゃれが好きな二人は、すぐに打ち解けて日本代表のチームメート以上の仲良しになったそうだ。
 そして、化粧品会社に勤務する本堂選手が、村岡選手の誕生日に「アイシャドー」をプレゼントしてからは、二人はメークの話をしながらリラックスしていると言うのだ。

 筆者がこの記事を微笑ましく読んだことは言うまでもないが、「メークで絆 重圧和らぐ」の見出しにホッとしたのは、女子選手のメークを普通に肯定している内容が、そこにあったからだ。

 女子選手のメークについては、しばしばSNS上で誹謗中傷の書き込みがなされたりしている。女子選手のメークに難癖をつける主張は、ほぼ以下に集約できるだろう。

 「メークする時間があったらもっと練習しろ」

 ただ、これはまったくナンセンスな意見だ。
 トップ選手と言えども、一日中練習するわけではない。
 大切なことは、オンとオフの切り替えだ。
 メークやファッションは、そうした気分転換に極めて有効だ。

 いや、メークの効果はそんなことに留まらない。
 誰が主張していたか忘れたが、女子選手がメークをすると競技力がアップするという研究成果を最近見かけた。
 もちろんそれは、競技にもよるだろう。メークしたくてもメークできない競技もある。ただ、「メークすることで自信を持って人前(メディアを含め)に出ることができるようになった」と語っていた女子選手もいる。
 これだけでもメークに効果はあると言えるだろう。

 その競技のトップ選手が、メークをしてメディア露出に対応する。
 それが競技のイメージアップにつながることは言うまでもない。

 インタビューゾーンにやってきた村岡選手が、ゴーグルを取って取材に応じる。
 テレビで顔がアップになる。そのまつ毛は、きれいにカールされている。
 自信を持って語られる言葉の数々…。

 パラリンピックで活躍する女子選手が、メークをして金メダルを獲る。
 それを新聞社もテレビも堂々と報じる。
 これを境にメークの論争など、もう必要ないだろう。
 誰もが好きなように自分をアピールすればよいのだ。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
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