【令和の断面】vol.117「さくらオーバルフォートを知っていますか?」

令和の断面


「さくらオーバルフォートを知っていますか?」

 埼玉県熊谷市の熊谷スポーツ文化公園。
 ここに広がるスポーツ複合施設「さくらオーバルフォート」の存在は、2019年に日本で開催されたラグビーW杯の良きレガシーの代表例といえるだろう。

 先日、この施設を見学させてもらった。
 案内してくれたのは、「埼玉パナソニックワイルドナイツ」の飯島均GM(ゼネラルマネージャー)と渡瀬裕司戦略推進D(ディレクター)のお二人だ。
 「さくらオーバルフォート」は、ここを本拠地とするラグビーチーム「埼玉パナソニックワイルドナイツ」の練習施設と一般の人も利用できるホテルやクリニックや調剤薬局、そして誰もが気軽に入れるカフェやレストランの複合施設だ。

 モダンなクラブハウスの玄関ホール正面には、端正に作られた武士の甲冑が飾られている。近代的な建物に、超日本的な伝統の武具。
 発案者は飯島GMだ。
 「いろいろな人が来た時に玄関から楽しんでもらえると思ったのと、外国の方には選手を含め、侍のイメージでとても人気があるんです」
 この「来た人に楽しんでもらおう」という発想が、「さくらオーバルフォート」には細部にまで行きわたっている。

 クラブハウスにあるカフェは、天然芝の練習場の真ん前にあり、選手に混ざって一般の人も利用できる。練習もここで自由に見られるのだ。

 グラウンドを挟んだ反対側には、クラブハウス同様にグラウンドを臨むようにホテルが建てられている。ベランダからも手に取るように練習や試合が見られる。ラグビー関係者の宿泊はもちろん、企業の研修や子どもたちや学生の宿泊にも対応している。

 ホテルの横にはリハビリ施設と調剤薬局を伴ったクリニックがあって、選手だけでなく近隣の方々も受診に訪れている。

 この複合施設の素晴らしい点は、強豪チームの練習施設を単に選手だけで使うのではなく、できる限り、いやほとんどを地域の人たちと共有しているところにある。

 何気なく公園を訪れた人も、グラウンドのすぐ脇で練習を見たりできる。そしてそうした機会を通じて、周辺のラグビーコミュニティーがどんどん広がっていく。
 一番影響を受けるのは、きっと子どもたちだろう。
 ラグビー文化に触れて、選手を目指したり、ラグビーのファンになったりする。
 女子チームの強豪「ARUKASU KUMAGAYA」の事務所もホテル内にあって、女子ラグビーの輪もここから広がっている。

 渡瀬Dは、慶應義塾大学の後輩で久しぶりに会ったが、相変わらず生き生きとしていた。チームの快進撃と複合施設の充実が、彼のエンゲージメント(貢献意欲)をさらに高めているに違いない。

 「さくらオーバルフォート」を中心にした熊谷のラグビーシーンは、地域の人たちを巻き込んで、これからもっともっと熱くなっていくことだろう。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
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