【令和の断面】vol.130「3ランを打たれて分かったオリックス阿部投手のすごさ」

令和の断面


「3ランを打たれて分かったオリックス阿部投手のすごさ」

 東京ヤクルトスワローズ対オリックスバファローズの日本シリーズ。
 第2戦が3対3(延長12回)の引き分けに終わったことで、この原稿がアップされる27日(木)には、まだ決着がついていないはずだ。
 (これは月曜日の夜に書いています)
 シリーズの行へが気になるところだが、どっちに転んでも(ヤクルトが勝ってもオリックスが勝っても)、これから触れる二人の選手がその流れを決めたと言ってもいいだろう。
 ヤクルトの内山壮真選手とオリックスの阿部翔太投手だ。

 内山の活躍については何の説明も要らないだろう。
 神宮球場での第2戦、9回裏、0対3とヤクルトがリードされている場面。
 0アウト1塁2塁で代打に起用されたのが内山だった。20歳の内山は日本シリーズ初出場。正直言って「荷が重いのでは……」と思った。
 案の定、内山はすぐに2ストライクに追い込まれる。当てるようなバッティングをすれば、内野ゴロでダブルプレーの可能性が高い。

 ところが1球ファールにした後、難しい変化球を2球見送った内山は、6球目のストレートを見事に捉えてレフトスタンドに叩き込む。
 まさに起死回生の3ランホームランだった。
 この一振りの心境について内山はこう語った。

「腹をくくっていくしかないと思っていました。1年間1軍で出させていただいて、その経験が、今日の1打席に詰まっていたと思います」

 そう、何ごとも迷っていては良い結果は望めない。
 最後は、腹をくくっていくしかないのだ。

 一方のオリックスは、3対0とリードしている場面(9回)で抑えに阿部を送り込んだ。今シーズンは44試合に登板して防御率0.61。自責点はわずか3しかない。絶対的な切り札だ。
 しかし、この阿部が前述の通り内山に痛恨の一発を浴びる。自責点3の投手が一振りで3点を失う。しかも3対3の同点に追いつかれてしまった。考えてもらいたいのは阿部投手の精神状態だ。どんな人でも最悪の状態だろう。

 ところがこのダメージを負っても、ここから立ち上がるところに阿部のすごさを見た。3ランを打たれてもまだ0アウト。この後迎えるバッターは、3番山田、4番村上、5番オスナの強力打線。一人でもランナーを出せば、一気呵成にヤクルトが攻め込んでくる流れだ。阿部は、この3人をセンターフライ、1塁ゴロ、三振で切り抜ける。オリックスもこのゲームで勝つことはできなかったが、最悪の逆転負けを喫しなかったのは、どん底の状態でも諦めることなく後続を打ち取った阿部の粘りがあったからだ。

 劣勢の中で腹をくくって一振りに賭ける。
 どん底の状況でも、諦めることなく最善を尽くす。
 ヤクルト内山、オリックス阿部。
 この二人の存在が、両チームの粘りを象徴している。
 去年も7戦まで戦ったこのカード。
 きっと今年ももつれることだろう。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
バックナンバーはこちら >>

関連記事