【令和の断面】vol.135「内山壮真の探求心」

令和の断面


「内山壮真の探求心」

 サッカーW杯の合間に行われた「東京ヤクルトスワローズ2022優勝感謝のつどい」に出席した。残念ながら日本シリーズでは、オリックスバファローズに敗れたが、2年連続のセ・リーグ制覇は素晴らしい成績だ。OB会副会長としても胸を張って参加し、監督、選手、関係者に労いの思いを伝えさせてもらった。

 今季を振り返れば、文句なしに村上宗隆のシーズンだった。
 日本新記録となる5打席連続ホームランを記録し、王貞治氏のシーズン55本を抜く56本塁打を放ち、三冠王にも輝いた。以前、このコラムで56本目のホームランに「1億円のマンション」が用意されている(オープンハウスが提供)ことの功罪を書いたが、そんなプレッシャーも吹き飛ばして神宮球場のシーズン最終打席で56本目を打つのだから、まさに千両役者である。しかも約束の「1億円のマンション」は「3億円」にグレードアップしたそうだから、村上の喜びも倍増したことだろう。

 さて、そんな村上の報道は山のようにあるので、今回はヤクルトの超ホープ・内山壮真(20歳)について書いておこう。
 内山と言えば、オリックスとの日本シリーズ第2戦で起死回生の同点3ランを9回に放ったあの選手である。
 残念ながら出番は、あの打席を含めて3回代打で出場するに留まったが、間違いなくこれからのヤクルトを背負っていく選手になるだろう。

 ポジションはキャッチャー。
 ベテランの中村悠平(32歳)と強肩の古賀優大(24歳)がいるので、まだレギュラーという訳にはいかないが、高卒1年目から1軍を経験し、2年目の今シーズンでこの活躍を見せる逸材である。
 石川県、星稜高校時代は遊撃手をしていたほどの運動神経の持ち主で、身長は171センチと小柄だが、当時から打撃センスは抜群だった。

 そんな内山についておもしろい報道を読んだ。
 日本シリーズの3ランは、チームの大先輩青木宣親のバットを借りて打ったそうだが、この秋の練習試合ではオリックスの吉田正尚のバットを使ってホームランを打ったそうだ。内山自身のバットが900グラム前後なのに対して、吉田のバットは880グラムと軽い。その分、操作性に優れていて「すごく振りやすい」と感想を述べている。

 人のバットを借りることを褒める話ではない(笑)。
 もちろん人のバットで打つ思い切りの良さや、先輩にバットを借りるコミュニケーション能力も問われるだろうが、その根底にあるのは彼の研究心だ。
 まだ2年目の彼は、自分に合ったバットを必死に探している。その姿勢が先輩のバットを拝借して打ってみる行為につながっている。
「弘法筆を選ばず」とは言うが、野球のバットは自分に合ったもの使わなければ、なかなか思うように打てない。同点3ランに満足することなく、貪欲に自分のバットを探す探求心が、これからの内山をさらに成長させることだろう。

 そしてこうした選手の存在が、今年のヤクルトの強さを支えていたのだ。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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