【令和の断面】vol.137「現役ドラフトがもたらすもの」

令和の断面


「現役ドラフトがもたらすもの」

 東京ヤクルトの村上宗隆が3年18億円の契約を結んだ日に、非公開でプロ野球の現役ドラフトが行われた。
 才能がありながら埋もれている選手、チーム事情で出場機会に恵まれない選手、もうひとつ伸び悩んでいる選手、それぞれに事情はあるが、トレードによって球界全体を活性化させようという狙いだ。
 このドラフトによって12球団は必ず一人の選手を放出して、他球団から新しい選手を一人獲得することになる。

 現役ドラフトの仕組みは、かなり複雑なので、要点だけを説明しておこう。
 まずトレードの対象にならない選手がいる。

 ・外国人選手
 ・複数年契約選手
 ・年俸5000万円以上の選手(一人だけ、1億円未満の選手は対象になる)
 ・FA権を行使した選手
 ・FA資格選手
 ・育成選手
 ・シーズン終了時に育成から支配下になった選手
 ・前年トレードで獲得した選手

 つまり試合に多く出場している選手と移籍してきたばかりの選手は除外されることになる。
 12球団は事前に欲しい選手を指名し、指名された選手の指名数が多いチームから欲しい選手を指名する。次は選手を取られたチームが欲しい選手を指名し、これを繰り返していく。つまり他球団に自チームの選手が指名されたら、今度は自分たちが欲しい選手を指名できるのだ。こうやって全チームが一人獲得して一人放出するまでトレードを進めていくのだ(※他にも指名順にはルールがある)。
 今回は1巡目だけで終わったが、2巡目を希望する球団があれば続けることも可能になっている。

 移籍が決まった選手は以下の通りだ。

 オリックス→ロッテ(大下誠一郎)内野手
 西武→日本ハム(松岡洸希)投手
 阪神→西武(陽川尚将)内野手
 日本ハム→ソフトバンク(古川侑利)投手
 ソフトバンク→阪神(大竹耕太郎)投手
 ロッテ→ヤクルト(成田翔)投手
 横浜DeNA→中日(細川成也)外野手
 中日→横浜DeNA(笠原祥太郎)投手
 楽天→巨人(オコエ瑠偉)外野手
 巨人→広島(戸根千明)投手
 広島→楽天(正随優弥)外野手
 ヤクルト→オリックス(渡辺大樹)外野手

 この制度に個人的には大いに期待している。
 プロ野球界には、スター選手の陰に隠れて万年控えで埋もれている選手が必ずいるからだ。運悪く村上の控えになったら、ほとんど出番はないだろう。そうした選手たちがトレードされることで生き返る可能性がある。もちろんそもそも実力がなくて控えに甘んじている選手もいるだろうが、そうした選手も環境の変化(トレード)で覚醒することもある。

 いま、一般の社会でも労働力の流動化が求められ、リスキリングなどが新たな課題になっている。そうしたことを通じて経済を活性化していく。
 自分に合った職場に移り、また自分に適して能力を再開発(リスキリング)する。
 こうしたことは野球界でも必要なことだ。
 移籍した選手たちが、どのような結果を出すか。
 そこに、この制度が定着するかどうかもかかっている。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
バックナンバーはこちら >>

関連記事