【令和の断面】vol.141「藤浪晋太郎よ、オラオラ系で投げろ」

令和の断面


「藤浪晋太郎よ、オラオラ系で投げろ」

 「Please call me Fuji」
 「フジと呼んでください」と米国メディアに挨拶した藤浪晋太郎(28歳)は、流暢な英語で両親とファン、阪神とアスレチックスに感謝の思いを伝えた。

 そして
 「Go! Oakland A’s !!」
 「Thank you」
 とスピーチを結んだ藤浪は、緊張よりも喜びに満ちた表情をしていた。

 阪神タイガースからポスティングでオークランド・アスレチックスに移籍が決まった藤浪。契約は1年だが、年俸は325万ドル(約4億3875万円)、インセンティブ(出来高払い)でプラス100万ドル(約1億3500万円)という高い評価で迎えられた。

 阪神ファンには、残留を望む人も多いだろうが、私はこの決断を大歓迎している。
 むしろ遅すぎるくらいだ。
 しかし、チーム事情もあるし、何より本人がその気にならなければ実現しないチャレンジだ。これから藤浪がどんな活躍を見せてくれるかは、彼のパフォーマンス次第だが、私はかなり楽観的に藤浪の成功を信じている。
 なぜなら彼のフィジカル(身長197センチ)や球速は、メジャーで投げていくのに十分なレベルにあると思っているからだ。

 しかし、残念ながら日本ではそのポテンシャルを活かし切れなかった。
 細かいコントロールを気にするあまり、ピッチングフォームも小さくなり、おまけにいつも恐々と投げていた。
 高校時代は、「打てるもんなら打ってみろ」という自信に溢れていたが、阪神に入団してから、年々その気概が感じられなくなっていった。
 本人はさまざまなことに悩み、辛い日々を送っていただろうが、プロ野球はそんなことに同情してくれない。最後は、自分で自分を育てるしかないのだ。

 そして迎えたメジャー挑戦のチャンス。

 そう、彼に必要だったのは「変化」だ。
 もっと言えば、何の心配もなく伸び伸び投げられる環境だ。
 年俸も4億円もらえば、もうお金のことを心配する必要もないだろう(笑)。
 誰に気兼ねする必要もない。
 メジャーのマウンドに上がったら、自分の投げたいように思い切り投げ込めばいいのだ。
 それさえできれば、彼は間違いなく活躍するだろう。

 三冠王を3度取っている、あの落合博満氏も「一番打ちにくい投手を挙げろと言われたら藤浪だ」と語っている。
 それは、藤浪が右打者によく死球を与えていたからだろう。
 もちろん狙って投げていたわけではない。
 しかし、時々そのボールが来るから、右打者が踏み込んでいけないというのが落合氏の評価だ。
 そもそも藤浪の投球フォームは、クロスにステップして、なおかつスリークオーターで投げるから、右打者にとっては身体に向かってくる厄介なボールだ。加えて変化球も多彩だ。
 必要なことは、本来の自分を思い出して無心で投げることだ。

 同じようなことに悩み、メジャーに渡って再生を遂げた投手がいる。
 巨人からレッドソックスに移籍した澤村拓一だ。彼も日本では荒れ球が代名詞だったが、メジャーでは日本時代が嘘のように伸び伸びと投げていた。これも精神的なものだろう。

 英語も巧みに話す藤浪は、アメリカの方が水に合っている。
 彼に求められることは、日本時代を忘れて「オラオラ系」で投げることだ。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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