【令和の断面】vol.142「卓球 早田ひなのメンタルコントロール」

令和の断面


「卓球 早田ひなのメンタルコントロール」

 卓球の全日本選手権、女子シングルス決勝(29日、東京体育館)。
 実力者早田ひな選手(22歳)の対戦相手は、勢いのある18歳木原美悠選手だった。木原はその勢いのままに、いきなり2セットを先取する。
 この大会、早田は混合ダブルスと女子ダブルスをすでに制していて、シングルス決勝には、史上4人目の大会3冠が懸かっていた。

 ところが2セットを失い最悪のスタートになった。
 下手をすれば、1セットも取れずにストレート(0-4)で負けることもある。
 世界ランキング6位(2022年夏)の早田だけに、逆にその可能性(0-4)が高いと思った。なぜなら、早田の実績やプライドが邪魔をして、格下の相手に余計に劣勢を意識させられる。絶対に負けられないという意識が、焦りや力みを生んで、自滅する展開が想像されたからだ。

 それは、競技を問わずスポーツではよくあること。
 ジャイアント・キリング(番狂わせ)は、多くの場合、強者が思わぬ劣勢の中で焦りもがいて本来の力を発揮できずに起こるのだ。

 しかし、この日の早田は、そんな予想を覆し、(0-2)から盛り返してセットカウント(4-2)で逆転優勝を飾ったのだ。

 インタビューで早田は言った。

 「2セット失ったところで、もう負けたと思いました。だからその後は、(勝敗を気にせずに)1プレー1プレーを積み上げて、しっかり戦うことを考えました」

 決勝に出てくる選手は、強い。
 その選手に2セットを先取されたら、もう勝てない。
 だから「しっかりその負けを認めようと思った」と語ったのだ。

 きっとこれが、劣勢から立ち直る「最善の策」。
 「唯一の策」とまでは言わないが、その状況を好転させるためには「負けを認める」ことが、残された挽回策なのだと思う。

 劣勢の中で負けを認めたからと言って、将棋のようにそこで「投了」になる訳ではない。

 そこまでの流れを断ち切るために、自分の中で勝手に終わらせてしまうのだ。
 もし、それができれば流れが変わる、いやその可能性が高まる!

 負けたくないゲームで、開始早々負けを認めることはつらいことだ。
 しかし、しっかりと負けを認めることで、そこから新しいゲームが始まる。

 これはあくまでも競技者の心の中の葛藤であり、実際には劣勢のゲームが淡々と続いていく。しかし、早田は心の中で2試合目に挑み、その試合に勝つことで優勝を狙える状況に帰ってきたのだ。

 実力に加えて、見事なメンタルコントロールだった。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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