【令和の断面】vol.144「中学部活動の地域移行は大丈夫か?」

令和の断面


「中学部活動の地域移行は大丈夫か?」

 東京で早朝、タクシーに乗った時の話である。
 タクシーの運転手さんは女性で、助手席の前にあるネームプレートを見ると沖縄に多い名前だった。
 選挙の応援とヤクルトのキャンプ取材で沖縄に行ってきたばかりだったので、思わず声を掛けてしまった。
「具志堅(仮名)さんは、沖縄のご出身ですか?」

 すると彼女は、嬉しそうに自分の出自を語った。
「そうなんです。沖縄本島の南の方の出身なんです」

 東京はもう長いんですか?
「いえ、1年くらい前からです。東京にも娘が住んでいるのでこちら来ました」

 沖縄にも娘さんがいらっしゃるんですか?
「ええ、中学の英語の先生をしているんですが、部活動の顧問が忙しくて、いい歳をしてまだ独身なんですよ」
「平日はもちろん土日も練習があって、どこにも行けない。授業の準備もあるのでまったく時間がないようです」

 そんな毎日ではデートもできませんね。
「ええ、学校に身を捧げていると笑っていますよ」

 こんな話をしていると目的地に着いたので、「お嬢さんは、これから大恋愛をして結婚しますよ」と余計なお世話を焼いてタクシーを降りた。

 その日は一日中、このタクシーでの話が気になった。
 部活動が忙しくて、まったく時間がない。
 きっと日本中にこんな先生がたくさんいるのだろう。

 結婚の話はさておき、中学の部活動が忙し過ぎる。
 しかも平日の練習(残業)、土日の活動(休日出勤)も、ほぼ先生方の熱意、ボランティア精神に支えられる形で成り立っている。

 この働き方を続けていると先生が疲弊してしまう。
 またこうした熱心な先生がいないところでは、子どもたちが部活動に取り組むことができない。
 どちらにしても現状のシステムはサステナブルな仕組みとは言えない。
 加えて、少子化によって学校の部活動がどんどん廃部に追い込まれている。
 このままでは、子どもたちの体力低下(運動部)を招き、才能発掘(文化部)が難しくなってしまう。

 こうした現状を改善するために、今春から3年間かけて「中学部活動の地域移行」が一気に押し進められることになっていた。
 このコラムでも期待を込めて何度か取り上げてきた。

 ところが、この政策を進めるスポーツ庁と文化庁の姿勢が以前よりトーンダウンしている気がしてならない。
 おそらく現場(学校や自治体、教育委員会や競技団体など)が混乱して、移行先(場所や施設)や指導者の確保がままならないのだろう。
 こうしたことは当初から予想されたことだが、掛け声だけ勇ましく、実際の移行に対する手引きや情報が足りないのだ。
 一言で言えば準備不足。
 しかし、この機を逃したら、子どもたちの部活動はどんどんじり貧なってしまう。

 各地の実情に合った形で、それぞれのスタイルに移行していく。
 ここで音を上げて今のやり方(先生の働き方)に留まるのか、新しい時代のスタイルを作るのか?
 日本の学校改革が岐路に立っている。
 今こそ、スポーツ庁と文化庁の強いリーダーシップが求められている。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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